「お客様と話ができないエンジニアは、生き残れません。」
IoTデバイスから収集されるデータの入出力と処理のワークフローをグラフィカルな操作画面で簡単に作ることができるツール「enebular」の開発者 株式会社ウフル データサイエンス研究所長 古城 篤 氏は、自らが描くエンジニアのあるべき姿について、次のような話をしてくれました。
「クラウドの時代となり、開発と運用の区別はなくなりつつあります。そして、テクノロジーの難しさは隠蔽化され、開発者としてのSI事業者とユーザーの区別もなくなろうとしています。」
そんな時代に、エンジニアは、どのようにすれば生き残れるのでしょうか。
「エンジニアからみれば、楽になってもらっては困るんです。難しいから自らの存在意義を確認できるとも言えるでしょう。しかし、どんなに時間をかけて身につけたスキルであっても、コモディティ化することは避けられません。むしろ、難しいことが簡単になり、誰もができるようになることは、世の中にとって良いことなのだという自覚を持たなきゃいけない。そして、常にユーザーの先を行き、彼らの先生となって、できる人を増やしてゆくことこそ、エンジニアの役割ではないでしょうか。」
しかし、それは、エンジニアの本来の役割なのでしょうか。
「エンジニアの役割は、システムを完成させることではなく、お客様のビジネスを成功させることです。そのためには、エンジニアは、自分は開発者だとか、運用技術者だといった自己規定を捨てて、もっとお客様の業務に近づき、お客様の視点を身につける努力をすべきだと思います。そして、コンサルと開発を区別せず、一体としてすすめてゆかなければなりません。」
しかし、どうすれば、そうなれるのでしょうか。
「私たちの会社は、マーケティングやプロモーション、そのためのWeb制作から始まった会社です。しかし、Web制作は、あっという間にコモディティ化してしまいました。次の差別化を求めなければなりません。必然的に、Webアプリケーションの開発に向かってゆきました。そんな時に出逢ったのがsalesforce.comです。」
Webサイトを制作することではなく、Webを使って成果をあげることが目的だという考え方は、もともと持っていたそうです。その手段として、Webアプリケーションの開発に向かい、開発のスピードを加速するためにsalesforce.comを使うようになったのは、必然なのかもしれません。そんな経験から、コーディングしないことがもたらす価値や使いこなすノウハウ、そして、クラウド・インテグレーターとしてスキルを身につけていったそうです。コーディングせずにIoTのワークフローを作ることができる「enebular」を開発したのも、そんな経験からの必然だったのかもしれません。
「システムの三層モデル、プレゼンテーション層、ロジック層、データ層のなかで、最も開発に手間がかかるのがロジック層です。ここをコーディングしないで開発できれば、全体の開発生産性は、大きく向上します。私たちは、この点に注目しました。IoTの開発需要は、ますます拡大してゆくでしょう。この需要に応え、IoTの普及を推し進めるために、私たちは、enebularを開発しました。」
自分たちの考えていることが、本当にうまく行くのかは使ってみなければ分かりません。だから、はじめから100点満点の正解を望むのではなく、まずは使えるであろうと考えられるシステムをいち早く作り、実際に試して問題点を洗い出し、完成度を高めてゆくPOC(Proof of Concept)が、大切になります。enebularは、そのためのツールとして開発したそうです。
しかし、オープンソースで提供してしまっては、ビジネスにならないのではないでしょうか。
「アウトプットするからこそ、インプットが得られます。それが、オープンであることの価値です。オープンなコミュニティのエコシステムに貢献するからこそ、凄い勢いで機能が追加されてゆくし、私たちは、そこからマーケット・ニーズをいち早く掴むことができるんです。」
例えニーズは掴めても、それだけではビジネスにはなりません。どうやってビジネスに結びつけてゆくのでしょうか。
「企業が実際の業務に使うためには、既存業務システムとの連携や得られたデータの分析や解釈など、プラスアルファのノウハウが必要になります。私たちは、そこにビジネスの可能性を求めています。多くの人が、enebularを使い、簡単にPOCができるようになれば、本番への懸念は解消され、マーケットはどんどんと大きくなって行きます。結果として、私たちのビジネス・チャンスも、拡大してゆくことになります。」
しかし、誰もができると言うことは、他の会社にも簡単にまねされることになり、結局は、コモディティ化を加速することになるのではないでしょうか。
「オープンなコミュニティに積極的に貢献することで得られるマーケット・ニーズや実務への適用をこなしてゆくことで、業務システムに適用するときの勘所も分かってきます。そうやって積み上げた実践ノウハウを使い、エンタープライズ・クオリティを担保した独自のテンプレートやメソドロジーを築いてゆくことで、お客様のビジネスに貢献できれば、差別化になると思っています。」
システムは、ビジネスの実践で使われてこそ磨かれ、価値を高めてゆくものです。そのためには、できるだけ業務の現場に近い人たちが、システム開発に係わり、俊敏に変化へ対応してゆくことが欠かせません。しかし、技術の難しさが壁になってしまいます。だからこそ、技術を知っているエンジニアが、業務に入り込み、彼らの視点を持ち、ビジネスの言葉と技術の言葉を通訳するビジネス・インタープリターにならなければいけないのです。そして、わかりやすい共通のことばを持つことができれば、意思の疎通は一層容易になり、使えるシステムに磨きかがかかってゆくのです。enebularは、そんなシステム開発のあるべき姿の実現を目指してきたからこそ、生まれてきたのかもしれません。
オープン・コミュニティへの貢献、エンドユーザーの視点と業務の視点、難しさからの脱却、開発とコンサルの一体化、実践ノウハウのテンプレート化やメソドロジー化など、ポストSIビジネスを考える上で、彼らの取り組みから学ぶことは、沢山ありそうです。
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目次
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- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン