従来のIT/SIビジネスの前提が変わろうとしている

売上増や利益を増やす、顧客の満足度を高める、経費を削減する。このような事業目的を達成するためにITシステムは作られます。しかし、事業目的は、お客様に委ね、ITシステムを作ることが自己目的化してしまい、「ITシステムを作る」ための自動装置の歯車としてしか、生きることができなくなってしまったのが、多くのSI事業者やITベンダーの現実ではないのでしょうか。

それでも彼らが必要とされるのは、「ITシステムを作る」必要があるからです。ユーザーが使いたいのは、事業目的を達成するための手段である「ITサービス」です。「ITサービス」は、「ITシステム」という道具を作り、稼働させなければ使えませんでした。だから、ITの専門知識やスキルを持つ労働力を使って作る必要がありました。しかし、この前提が変わりつつあります。

例えば、GitHub Copilot Workspaceが提供する機能をみると、もうその必要がないことが分かります。具体的には、人間が書いたIssue(何をしたいかの説明)を入力すれば、Copilotが仕様を書き、実装計画を示します。それに沿ってコードを生成、あるいは、既存のコードの修正を行います。これをビルドしてエラーがあれば修正してくれます。プログラム・コーディングのほとんど全ての工程を自動的に実行してくれます。人間は各工程でCopilotから示される内容を確認し、必要に応じて修正するか、そのまま見守ればいいことになります。

これまで、SI事業者やITベンダーが担っていた「知的力仕事」は、AIが代わりにやってくれるGitHub Copilot Workspace同様の機能を提供するサービスは、各社から発表され、その性能を競い合っています。

SI事業者やITベンダーの多くは、プログラム・コーディングなどの「知的力仕事」をこなすための工数需要が収益の源泉です。これが不要になろうとしています。本当にそうなれば、”「ITシステムを作る」という自動装置の歯車”では、事業を継続することはできなくなります。

生成AIの登場と進化は、この流れは、一気に加速しそうです。その背景には、このようなツールを生みだした米国のIT事情が、大きく関係しています。

米国で開発生産性を向上させるツールの発表が相次ぐ理由

一般に、システム開発では、進捗の段階によって、必要とする工数が大きく変動します。例えば、企画や設計の段階では少人数で、コード生成は大人数で、テストではまた少人数になります。日本では、このような工数の変動に合わせて、ITエンジニアの雇用や解雇を柔軟に行うことはできません。それは、日本の労働法律や就労慣行の制約があるからです。そこで、その変動分をITベンダー/SI事業者がバッファーとなって、段階に応じた必要な工数を調達し提供するというやり方が定着しました。そのため、ITエンジニアの7割がITベンダー/SI事業者に所属するという構図が生まれました。

一方、米国では、雇用の流動性が高く、プロジェクト単位、あるいは、システムの開発段階に応じて、必要な工数を雇用し、仕事がなくなれば解雇できます。結果として、内製化比率が高まります。そのため、ITエンジニアの7割がユーザー企業に所属しています。

ユーザー企業が、エンジニアを雇用し、自らの責任でシステムを内製する米国では、ITエンジニアの生産性が、ユーザー企業のコストに直接影響を与えます。当然、ユーザー企業は、コストを下げるために、開発生産性を大幅に向上させる手段を求めます。そんなニーズに応えようと、これまでも多くの開発生産性向上のためのツールが登場しました。クラウドもまた、そんなツールの1つです。ここに生成AIが登場し、これを使って各社がこぞってサービスの充実を図っています。そして、最大市場の米国ユーザーの期待に応えようと、躍起になっているわけです。

我が国では、開発を担っているのは、ITベンダー/SI事業者です。生産性の向上は、彼らの収益を悪化させますから、なかなか積極的にはなれません。また、ユーザー企業も、これまで彼らに丸投げしているので、システム開発の実践スキルに乏しく、リスクも担わせているので、彼らに頼らざるを得えません。そのため、このようなツールの導入についての主導権を持つことができず、これらツールの普及が進まないという状況が、生じているわけです。これは、日本でのクラウド利用が米国ほどには普及しなかった理由でもあります。

ユーザー企業が内製化をすすめる理由

ITを武器に競争力の強化を図ろうと、日本のユーザー企業も、遅まきながら本腰を入れ始めました。それが、内製化というトレンドを生み出しています。

内製化のメリットは以下の3つに整理できます。

  • 俊敏性の獲得:ベンダーに頼らず自分たちで即決・即断でき、変化に即応できる
  • 先進技術の活用:需要の大きい枯れた技術に偏っているベンダーに期待できない
  • 専門スキルの高度化:圧倒的な業務の知見とITを融合させやすい

ユーザー企業にとって、先進テクノロジーは、競争力を高める上で、強力な武器となります。しかし、ITベンダー/SI事業者は、上記理由から開発生産性の向上に消極的であり、リスクを回避するために安定志向を重視して、需要の大きな枯れたテクノロジーやノウハウに注力する傾向にあります。そのため、先進テクノロジーのノウハウに乏しく、ITを競争力の源泉にしようとしているユーザー企業の期待に応えることができません。

自分たちでなんとかしなければ、競争に負けてしまいます。そんな事情もあり、内製化への動きが加速するわけです。しかし、そのためのITエンジニアを採用、育成することは容易なことではありません。

そこに登場したのが、生成AIツールです。ITベンダー/SI事業者にたよることなく、自分たちでシステムを開発できます。むしろ業務現場を理解し、あるいは、現場の近くにいるユーザー企業の人間だからこそ「何をしたいか=issue」を的確に表現できるので、生成AIツールを使いこなすには、うってつけです。

ユーザー企業が、内製化の適用範囲を拡げることは、ITベンダー/SI事業者にとっては、ユーザー企業が、顧客から競合になることを意味します。この状況に対処できなければ、ビジネスの機会を失ってしまうことは、もはや必然です。

ビジネス転換の2つのステージ

この状況に、ITベンダー/SI事業者は、どう対処すればいいのでしょうか。

ITベンダー/SI事業者の戦略:ステージ1

移行期における状況です。これまで、外注に依存してきたユーザー企業は、容易に外注を辞めることはできません。しかし、元請には、コスト削減の圧力はかかり続けます。また、開発テーマも増え続けます。この両者を取り込んで、ユーザーの期待に応えようとすると、元請の事業者は、下請けへの工数を減らすしかありません。そのためのツールとして、AI開発ツールは使われるようになるでしょう。結果として、SES(工数提供サービス)の仕事は減少します。

しかし、ここに大きな課題があります。それは、元請に「プログラムを書けるエンジニアがいない」という現実です。そうなると、これまで下請けに甘んじていた事業者は、その経験値を活かし、積極的にAIツールを使って開発生産性を高めれば、低コスト、高品質、高速開発をウリにして、直接ユーザー企業を顧客に取り込むチャンスとなるかも知れません。

生成AIツールを使えば、開発の生産性は高まりますが、あくまで「支援者」の役割であり、いまの段階で使いこなすには、「プログラムを書ける」人間がいることが前提です。この前提を満たすことができない元請は、ユーザー企業の期待に応えられず、チャンスを逃してしまうことも考えられます。ここに、下請けが元請になれる下剋上のチャンスがあるかも知れません。

ただし、顧客であるユーザー企業のニーズを的確に掴み、事業戦略に踏み込んだ提案ができるスキルが求められます。これまでは、このような業務を元請に任せていたわけで、これを自らできる能力を磨く必要があり、そのための人材の育成やマーケティング/営業の施策を考え直す必要があるでしょう。

しかし、これは初期段階であり、次のステージ2では、ユーザー企業の内製化の拡大を前提に、根本的な事業の変革が求められることになるはずです。

ITベンダー/SI事業者の戦略:ステージ2

「事業目的を達成するための手段であるITシステムの構築をなくす」

生成AIを搭載したシステム開発ツールは、この「あるべき姿」を目指して、機能の進化を続けていくでしょう。

GitHub Copilot Workspaceの発表でも述べられていることですが、「こんなことをしたい」と言えば(つまりIssueを設定すれば)、システムが自動生成される時代を迎えつつあります。

これは、システム開発の生産が高まるとか、人手によるコード生成が不要になるという話しに留まりません。もっと根本的な変化をもたらすことになります。それは、「長期継続的に使うことを前提にシステムを作り、そのシステムを維持するためにメンテナンスを必要とする」という、これまでの常識の崩壊です。

「その時々に必要なシステムを作り、変更や新たなニーズが生じたなら、既存のシステムを捨てて、新しく作り直す」

物理的実態ないソフトウエアです。コード(記号)の集合体であるプログラムは、作っては壊しを繰り返しても産業廃棄物が増えるわけではありません。しかし、これまでであれば、ソフトウエアを作るのには、相応の時間も、手間も、コストもかかるため、「作っては壊しを繰り返す」ことは現実的ではなく、会計上も無形固定資産として資産計上され、手間を掛けてメンテナンスすることが当たり前と考えられています。

しかし、生成AIの登場により、この常識が変わります。具体的には、次のような手順です。

  • マイクロサービス・アーキテクチャーを前提に、自分たちの業務に特化したサービス(システムを構成する機能部品)を予め用意しておく。
  • マイクロ・サービスは、品質保証され、コンプライアンス規程にも準拠したサービスとして用意される。
  • これらを生成AIによって、Issueに従って組合せ、構成すれば、業務に必要なITサービスを容易に実装できる。ここで言うサービスとは、必ずしも自分たちが作ったものばかりではなく、クラウド・サービスで提供されるAPIもまた対象となる。

前述のように、ユーザーが求めているのは、「ITシステムを作る」ことではありません。自分たちの事業課題を解決する「ITサービスを使う」ことです。

事業課題とその解決策を一番よく知っているのは、ユーザー自身であるとすれば、ユーザーが自らIsseuを設定するのが一番良いわけです。それができる仕組みが登場したのです。

ユーザーが自分で、ITサービスを思い通りに実装でき、いらなくなったらそれを捨てて、直ぐに作り変えることができるようになろうとしています。それができるのなら、ITシステムを専門家に任せて作ってもらう必要はなくなります。まさに「ITシステムを作る」という、ITベンダーやSI事業者の事業の前提が、なくなるわけです。

このような仕組みを実現するには、マイロサービスに長けたエンジニアが必要です。すなわち、DDD(ドメイン駆動設計)、CI・CD(継続的インテーグレーション・継続的デリバリー)、インフラ仮想化、自動化、アジャイル開発プロセス、といったさまざまな分野の技術や方法論を組み合わせるスキルが必要です。

ただ、大人数である必要はありません。それができる一握りの精鋭さえいれば、事足ります。そういう精鋭チームをユーザー企業が持ち、ユーザーのニーズに応えられる環境を整備すればいいのです。これまでの「ITシステムを作る」ビジネスの前提となっていた人海戦術の必要はなくなります。つまり、工数需要が、消滅するということです。

行き着くところ、「普通にそこそこできる大勢のプログラマー」は必要なくなり、上記スキルを駆使できる「モダンITに長けた高いスキルを持つ少数精鋭のプログラマー」以外、生き残ることができないということになるでしょう。これは同時に、人月積算を増やすことが、事業目的となっている企業の存在意義がなくなることを意味します。

SI事業者やITベンダーはどのように事業を作り変えればいいのか

ユーザー企業は、AI搭載アプリ/ツールを普及させ、エンドユーザー自身で自分に必要なITサービスを作れるようになります。また、内製の範囲は拡大し、自分たちの業務で使えるマイクロサービスの整備や充実、さらには、それを使えるシステム環境の整備をクラウド前提で進めていくことになるでしょう。このようになれば、「ITシステムを外注する」という必要はなくなります。

一方で、上記のようなユーザーの取り組みを支援する需要は、増大します。ここにITベンダーやSI事業者は、ビジネスのチャンスを見出すことができるはずです。具体的には、以下の3つです。

  • ユーザー企業のデジタル戦略の策定や業務変革の支援。システムを作る工数ではなく、デジタルを前提にお客様の事業を作り変えるための知恵や方向を示すことであり、その技術的な裏付けを提供すること
  • 自らが、デジタル・サービスの事業者となり、新たな収益源を生みだすこと。これまでの経験値を踏まえて、得意分野を切り出し、そこに特化したオリジナリティのある・サービスを顧客に提供すること
  • お客様のAI活用や内製化を支援するためのデジタル・サービスの実装やツールの導入、環境の整備など

これらは、「工数で稼ぐ」ビジネスではありません。「技術力で稼ぐ」ビジネスです。つまり、ひとり一人の商品価値を高めて、これを高く買って頂けるようにしなくてはなりません。これは、多くのITベンダーやSI事業者にとっては、根本的なビジネスの土台を作り変えることになりますから、相応の覚悟と努力が必要になります。

SI事業者やITベンダーが直面する課題

「ITシステムが必要なわけじゃない、欲しいのは、ITサービスだ。ITベンダーに頼まなくてもそれができるのなら、そのほうがいい。」

「ITシステムは作ったら何年も同じものを使い続けなくちゃいけない。メンテナンスの手間もかけなくちゃいけない。でも、簡単に作れるのなら、必要な時に作り、いらなくなったら捨てて、新しく作り変えればいい。」

専門家でなければできなかったことを、AIが代わりにやってくれます。コストが安いだけではありません。ユーザーのやりたいことを先読みして提案してくれます。効率やセキュリティー、コンプライアンスや法律・規制についても確認し、必要な要件を満たしてくれます。そのための打ち合わせや手続きや見積もりをとる必要もありません。しかも、こうじゃないか、ああじゃないかと、きめ細かく世話を焼いてくれます。そんなパートーナーがいつもそばに寄り添って、仕事を手伝ってくれます。

自分の実現したい目的の達成や課題の解決を、外部の人に頼ることなく、自分でできるのなら、それが一番いいわけです。しかし、これまでは、「ITの専門知識やスキルを持つ人たちに頼らなければできない」という壁が立ち塞がっていました。だから、ITベンダーやSI事業者には、存在意義があり、彼らに対して、適正な対価を支払うことには、合理性があったのです。

この前提が、AIによって取り払われてしまいました(正しくは、取り払われようとしています)。これまでと同じ理屈で、ビジネス合理性を見出すことは、できなくなりました。

「ITシステムを作る」ための自動装置の歯車という役割から脱しなくてはなりません。「ITシステム」を作らなくてはならないという、誰もが当然のこととして受け止めていたITベンダーやSI事業者の事業の前提も、もはや意味がなくなってしまいました。

※ 次回はこれからの「ポストSI戦略」を考えます。

新入社員のための「1日研修/1万円」

今年で8年目を迎える恒例の”新入社員のための「1日研修/1万円」”の募集を始めました。

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社会人として必要なITの常識を学び、ITに関わることのやり甲斐を考える

ChatGPTや生成AIの登場でビジネスの前提が大きく変わってしまいました。DXもまた再定義を余儀なくされています。アジャイル開発はもはや前提となりました。しかし、ChatGPTに代表される生成AIが何か、何ができるのかも知らず、DXとデジタル化を区別できず、なぜアジャイル開発なのかがわからないままに、現場に放り出されてしまえば、自信を無くしてしまいます。

そんな彼らに、いまのITの常識をわかりやすく、体系的に解説し、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうと企画しました。

お客様の話していることが分かる、社内の議論についてゆける、仕事が楽しくなる。そんな自信を手にして下さい。

【前提知識は不要】

ITについての前提知識は不要です。ITベンダー/SI事業者であるかどうかにかかわらず、ユーザー企業の皆様にもご参加頂けます。

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これからの営業の役割や仕事の進め方を学び、磨くべきスキルを考える

ChatGPTの登場により、ビジネス環境が大きく変わってしまいました。もはや、お客様からの要望や期待に応えて、迅速に対応するだけでは、営業は務まりません。お客様の良き相談相手、あるいは教師となって、お客様の要望や期待を引き出すことが、これからの営業には求められています。

AIやテクノロジーに任せるべきことはしっかりと任せ、人間の営業として何をすべきか、そのためにいかなる知識やスキルを身につけるべきなのか。そんな、これからの営業の基本を学びます。また、営業という仕事のやり甲斐や醍醐味についても、考えてもらえる機会を提供致します。