お客様のIT投資はデジタル・トランスフォーメーションの実現にシフトする

ITあるいはデジタル・テクノロジーの積極的な活用が、事業戦略上不可避であるとの認識は、もはや広く行き渡っている。しかし、何をすればいいのか、どのように取り組めばいいのか、お客様もまた答えを持っていない。そんなお客様にしてみれば「何をしたいか教えてもらえれば、その方法を提案します」では困ってしまう。

また、自分たちにできること、あるいは自社のサービスや製品の範疇でしか語れないとすれば、それが最適な解決策なのかは分からない。お客様が知りたいのは「自分たちは何をすべきか」であり、「貴方たちに何ができるか」ではない。

お客様は、経営や事業に踏み込んで、何をどのように変えてゆけばいいのかを一緒に考え、テクノロジーやビジネスのトレンドから助言を与えてくれることを期待している。主導権をお客様に委ね、自分たちはただサポート役として助言する立場を越えようとしなのであれば、イノベーティブな解決策など描けない。自らもリスクを共有し、お客様と一緒になって新しいビジネスを作ってゆく覚悟が求められる。

営業は、こんなお客様のデジタル・トランスフォーメーションの実現を支えなくてはならない。合理化や生産性向上のためのシステム開発でもなければ、インターネットやAIを駆使した新しいデジタル・ビジネスを作ることでもない。テクノロジーを活かして、経営や事業のあり方を根本的に変えてしまおうという想いに応えなくてはいけない。

ITを含むデジタル化投資はデジタル・トランスフォーメーションの実現にシフトしてゆく。これからのビジネスのチャンスは、ここに関わってゆけるかどうかにかかっている。

テクノロジーの説明ではなく、お客様の価値を説明する

デジタル・トランスフォーメーションがビジネスのあり方を根本的に変えてゆく取り組みであるならば、私たちは、テクノロジーには詳しくない経営者や事業部門の人たちに、その価値とビジネスへの貢献について説明できなくてはならない。

例えば、IoTの大切さを伝えたいのであれば、モノがネットワークで「高速」かつ「確実」につながることではなく、それがどのような顧客価値を産み出せるかについて説明できなくてはならないだろう。例えば次のようなユースケースを描き説明することだ。

誰かが自宅で心臓発作を起こした。発作の前にその人が付けているウェアラブル・デバイスがその予兆を検知して、本人に注意を促し予防措置をとるよう喚起する。同時にヘルスケア・サービスのサポートセンターに連絡が入り、音声応答システムが起動し自動で様子を尋ねてくれる。

本人が返事できないことが確認され、倒れていること、脈や呼吸が乱れていることがウェアラブルのデータから判別できたので、直ちに救急車の出動が要請される。ところが、患者宅への最短のルートは工事のため通行止めだ。そこでカーナビには工事現場を迂回する最短ルートが表示する。信号は救急車の移動に合わせて自動で制御され、渋滞を回避する。

同時に病院への手配も行われ、カーナビにはどの病院に運べばいいかの指示が出される。病院の医師にも患者の状態や既往歴などのデータが送られ、対処方法についてのアドバイスが示される。そして、必要な準備するように通知される。

家の鍵は緊急事態であることから自動的に開錠され、救急隊が直ちに患者を運び出し病院に搬送する。患者は発作から10分もかからず病院に運ばれ大事には至らなかった。

データをつなぐ技術がどれほど優れていても、それだけでは顧客価値は生まれない。データをつないだ先に人の命が救われることが顧客価値ということになる。そのための物語を描き、お客様に伝えなくてはいけない。次のようなユース・ケースもある。

最近、MaaS(Mobility as a Service)という言葉が世間を賑わしている。MaaSは、さまざまな交通手段を組み合わせて最適な移動を提供するサービスだ。公共交通だけでなく、タクシー、レンタカー、カーシェア、自転車シェアなどの移動手段も含まれている。これらを、インターネットを介して連携させ、スマートフォンのアプリから目的地を指定すれば、最適な移動手段の組合せを提案してくれる。料金はその都度支払うものもあるが、定額を毎月支払う(サブスクリプション)ものもある。

MaaSの先駆的取り組みのひとつがフィンランドのヘルシンキに本社を置くMaaS Global社のサブスクリプション型サービス「Whim(ウィム)」だ。このサービスは、地元ヘルシンキのほか、ベルギーのアントワープ、イギリスのウエストミッドランドで正式にサービスを展開している。Whimの会員数は、MaaS Global本社があるヘルシンキでは、18年9月現在6万人で、ヘルシンキの人口63万人の約1割がWhimユーザーとなっている。Whimアプリ経由のヘルシンキでのトリップ数は、18年9月時点で150万回、利用者が選択する交通手段の割合は90%が公共交通で、残りが自転車やクルマなどの他の移動手段になっているそうだ。

このようなサービスを実現することが顧客価値ではない。その結果として、都市部での自家用車の流入が減り、交通渋滞や大気汚染が解消し移動時間も短縮することだ。将来、これに自動運転車が加われば、移動の手段を持たない高齢者にも「移動」の機会を提供することができるようになる。このような結果が顧客価値である。

テクノロジーを駆使し新しいビジネス・プロセスやビジネス・モデルを創ってもそれが、とのような顧客価値をもたらすのかを見失ってはいけない。そのための取り組みを「ソリューション」というが、どのような「価値」を実現するためなのかという目的を曖昧にしたままで、IoTやAIなどの手段を使うことが目的となってしまったソリューションでは、そこに投資する価値はないし、当然、お客様に受け入れてもらえないだろう。

お客様がテクノロジーを使うのは、実現すべき顧客価値が明確であり、それを生みだす物語があってこそだ。従って提案活動とは、次のような手順を踏むことになる。

  • お客様とともに顧客価値、つまりお客様の「あるべき姿」を探し、この実現を合意する。
  • 顧客価値を実現するための手順、すなわち物語を描く。ソリューションやサービス、製品や体制などは、ここに含まれる。
  • これをわかりやすく伝え、受け入れてもらい、共にすすめることを合意する。

テクノロジーの発展は、これまでには考えられなかった新しい手段を提供し、新たな物語を描くチャンスを増やしてくれる。そう考えれば、テクノロジーの進化は、沢山のビジネス・チャンスを生みだしてくれることになるだろう。

営業は売り込みもお願いも必要ない

「社長からIoTでプロジェクトを立ち上げるように指示されたのですが、何から手をつけていいのか、ほとほと困っています。」

こんな相談を持ちかけられたら、あなたはどう応えるだろう。彼らは何をしていいのか分からないままに、まずはIoTについてのネットの記事や書籍を探り、研修に参加し講演を聞き、「調査」と称する時間を費やしているかも知れない。

デジタル推進室やデジタル・ビジネス開発室などの組織を作り、その取り組みを加速しようとしている企業もある。覚悟を社内外に示すというのは、意味のあることだが、早々に成果をあげることが期待され、「何をどうすればいいんだ?」と、こちらもまた調査と検討に時間を費やしているところも少なくないようだ。

このような状況に陥っている人たちに共通しているのは、事業課題を明らかにすることなくテクノロジーを使うことが目的となってしまっていることだ。テクノロジーがもたらす社会やビジネスへのインパクト、これに対処するための課題の明確化、さらには時代に即した新しいビジネスの創出などを検討し、これからの事業のあるべき姿を描くべきであるが、そのような議論に至ることなく、既存の業務に当てはめて、その範囲で使えるところを探すことに終始していることも多い。

一歩進めて、既存の業務で使えそうなところを見つけて使ってはみたものの、特定の工程には効果はあったが、全体から見れば、現状とたいして変わらないという結論に達し、「使ってみた」という成果だけが残ることもある。これでは、事業の成果に結びつくことはない。では、どのように取り組めばいいのだろう。

まずは、お客様と何を解決したいのか、何を実現したいのかをしっかり議論することだ。例えば、この課題が解決できれば、競合他社に対して圧倒的な優位に立てる。あるいは、この工程をなくすことができれば、原価を3割削減できる。そうすれば、利益を大幅に改善し、市場のシェアも1割は伸びるだろう。「なんとしてもそうしたい」、あるいは「そうしなければならない」を現場の意志として明確にすることだ。これを実現することが顧客価値である。

「IoTで何かできないのか?」をそのまま実行してはいけない。「IoTで何かできないのか?」という問いかけを、いま抱える事業課題の解決や将来起こりうる事態への対処、新たな競争優位の創出と結びつけ、それを解決あるいは実現する手段のひとつとしてIoTを捉えることからはじめることだろう。つまり、「IoTで何かできないのか?」を次のように読み替えてみることだ。

  • 事業の存続や成長にとっていま何が課題なのか、これから何が課題になるのか
  • この課題を解消するためにすべきことは何か
  • 有効な手段は何か、IoTはその有効な手段になり得るか

例えば、人材の不足、競争の激化、変化の速さといった直面する課題を解決しようとしたとき、過去の経験や方法論にとらわれず、「いまできるベストなやり方は何か」を追求した結果、「IoT」が最適解であるとすれば、それがIoTで取り組むテーマとなる。しかし、他の手段が有効であるとすれば、なにもむりやりIoTで取り組む必要はない。

IoTかどうかはどうでもいい。大切なことは、事業の成果に結びつくかどうかであり、IoTを使うことではない。そこが入れ替わってしまうと不幸な結末を招くことになる。営業はこのような議論をリードできなくてはならない。

では、次のようなケースでは、どう対応すればいいだろう。

「セキュリティが心配なので○○を禁止する。」

そんな「セキュリティ対策(?)」が、当たり前に行われている。「セキュリティ対策」とは本来、テクノロジーの価値は、それを使うことによって実現する利便性や効率を最大限に引き出すための安全対策であり、その安全を確実に維持するためのルールの運営や教育などの安心対策でなくてはならないはずだ。そんなテクノロジーの価値を毀損する「セキュリティ対策」に何の意味があるのだろうか。

何が起こるか分からない、不安だから、心配だからと、セキュリティ対策の本来の目的を棚上げし、「対策すること」を目的とするとこんな発想になってしまう。

そもそも何を守るのか。どの程度の安心や安全を担保すればいいのか。対象や基準を定めぬままに、対策だけを考えている。本来対策など必要のないことまで含めて、漠然と「心配だから、不安だから」と、一律全てに対策(らしきこと)をしていることもある。例えば、機密扱いする価値のないイベントの案内を暗号化してメールに添付し、そのパスワードを続けて送ってくることがある。暗号化することに無駄なシステム資源を消費し、平文でパスワードを送り、それを開く手間を受けとる人にも求めてくる。それでセキュリティが担保されることなどないことは、まともに考えれば分かる話だ。

メールへ添付すること自体ネットワークに負担をかけるわけで、それが同報通信ともなると膨大なトラフィックを産み出す。また、メールで送り出されたファイルは、送信者には管理できない。そのためセキュアに扱われているかどうかが分からなくなってしまう。ファイル共有サービスを使えば、誰がいつその資料をダウンロードしたかが分かるし、問題があればいつでもダウンロードを停止できる。これがセキュアな運用だ。しかし、外部の仕組みを使うのが心配だと根拠稀薄な理由により、それも使わせないところもある。そして、大量なデータはメール添付できないので、CDやDVDで郵送することをルールにしているところさえある。郵送した瞬間に自分の管理外に置かれる。それがどのように使われるかが分からなくなってしまう。

本質に向きあうことなく思考停止し、セキュアであることよりもセキュリティ対策(?)を行うという形式が大切であると考える人たち、それに文句は言いつつも改善を働きかけない人たちの結果としての暗黙の了解が、テクノロジーの価値を毀損し、ビジネスへの貢献を阻んでいる。

ものごとの本質を問い、本質的価値を最大限に引き出すために、何をすべきかを考え、それにふさわしい手段を提供することが、ITに関わるビジネスの「あるべき姿」だろう。しかし、その本質を問わないままに、手段を提供すること、あるいは手段の価値(=儲け)を最大化することが目的とはなってしまっては、やがてはお客様の信頼を失ってしまうだろう。

ここに紹介したセキュリティ対策(?)以外にも、似たような話はいくらである。本質を棚上げし思考停止し、過去の形式だけをただ無批判に繰り返すことが、いかに無益であり、むしろ事業や社会の発展を停滞させる実害でしかないことを、お客様に気付かせなくてはならない。そのためには、常に本質を問い、「正しいこと」を、責任を持って伝えることを心がけるべきだろう。営業はそんな役割も担っている。

これができれば、売り込む必要もなければ、お願いする必要もない。お客様が「本質」を理解すれば、自分たちの課題は何かに気付くだろう。そうすれば、これを解決したい、これを実現したいとの思いを持つ。それが実現した後の状態、つまり「あるべき姿」についてのイメージを描くことができれば、その実現に向けて行動に移す決心をするだろう。そういう行為が、結果として案件を創り出す。

新しい技術と蓄積されたノウハウの融合が求められている

このような営業としての役割を果たすためには、自分の分野を狭めてはいけない。事業や経営、テクノロジーの全般に渡って、広い知見を持つことだ。もちろん、自分たちの得意や専門分野が不要になるわけではない。ただ、自社の製品やサービスについての知識だけではなく、経営や事業について、そしてテクノロジーのもたらす価値について、クロスオーバーに相談できる存在にならなければ、提案の入口は作れない。

お客様に寄り添い、お客様の目線で物事を捉えることだ。そして、何が一番正しいことかをお客様と一緒に探し出すことだ。そして、自分たちにできるかできないかではなく、お客様が何をすべきかを明らかにすることだ。

それらを全て自分たちだけでまかなうことなどできない。だから、オープンに広く緩い連係を維持し、いざとなれば必要なスキルをダイナミックに結集できるオープン・イノベーションに取り組む必要もある。また、広く人脈を持つことも大きな助けになる。

もちろん、新しい技術だけでは、お客様の求める価値を提供できない。これまでに培った技術やノウハウをも組み合わせ、先に紹介した「バイモーダルIT」にも貢献できてこそ、お客様の期待に応えることができる。

お客様はシステムを作ってもらうことや製品を導入してくれることを期待しているのではなく、ビジネスの成果に貢献してもらうことを期待している。営業は、その期待に応えなくてはならない。

それにもかかわらず、自分たちの抱える製品や得意とするテクノロジーだけを語り、あるいは旧態依然とした知識や方法論を前提にテクノロジーの未来を語れないとすれば、お客様は相談しようなんて思わない。自分たちのビジネスの未来とそこに至る物語を語れない相手に何を相談すればいいのだろう。

そんなお客様の期待に応える心構えと備えはできているだろうか。デジタル・トランスフォーメーションの実現に向けた取り組みは、そんな課題を私たちに突きつけている。

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