私は、大人の学びには3つの段階があると考えています。
もはや私たちが生きる社会は、AIが前提の時代となりました。AIを前提におかないままに、これからの「学び」のあり方を語ることはあり得ません。
人間の知性はAIの知性とハイブリッド化し、「Augmented Intelligence(拡張知能)」へと進化していきます。それを前提としたとき、これからの時代における「学びの3つの段階」について、考えてみました。
第1段階:素人
まずは、第1段階である「素人」です。
仕事をどのようにこなせばいいか分からない段階であり、新入社員や経験の浅い若手の多くはここにいます。これまでは必死で知識やスキルを身につけ、ルーチンワークを覚えることが主眼でしたが、AI時代は異なります。この段階で最も重要なのは、「AIを当たり前に使う習慣を持たせること」です。
そして、AIの力を引き出すために不可欠な「問いを立てる」能力を磨くことの大切さを知り、その習慣を身につけなければなりません。AIを使いこなしながら自分の行動を「意識」して修正を繰り返すことで、基礎的な仕事を要領よくこなせる「一人前」へと成長していくのです。
第2段階:ベテラン
次の段階は、ルーチンワークを無意識にこなせ、応用も利くようになる「ベテラン」です。
日常のルーチンにAIを活かすことで、同じルーチンでも仕事のパフォーマンスを劇的に高めることができます。それを可能にするのは、ルーチンをこなせる現場感覚と体験によって磨かれた人間の「感性」や「スキル」です。ルーチンワークは「想定の範囲内」で最大限のパフォーマンスを発揮することが求められるため、ベテランの経験値とAIの処理能力が掛け合わされば、素晴らしい成果を生みます。
しかし、多くの人はこの「ベテラン」の段階で満足し、「学び止め」をしてしまいます。ここに大きな罠があります。いくらAIを使ってルーチンワークを極限まで効率化しても、変化が速く不確実性が高まる今の世の中では、その前提となる「仕事そのもの」がなくなる可能性が高いからです。前提の仕事が消滅してしまえば、AIでの効率化だけを目指しても何の意味もありません。想定の範囲内に留まるベテランのままでは、想定外の事態に対処することはできないのです。
これからの知的活動は「問いを立てる」ことから始まり、情報収集や分析といった「知的力仕事」はますますAIに任せられるようになります。AIが出した成果や回答を利用し、実社会で決断を下すのは人間の役割です。なぜなら、結果に対する「責任」を引き受けなければならないからです。「私はAIの出した結果に従っただけです」という言い訳は通用しません。当事者として責任を引き受ける「覚悟」を担保できるのは、人間だけなのです。
単なる知識の蓄積ならAIには敵いません。だからこそ、その背景にある思想や哲学、美意識といったものを深く考える「教養」が求められます。豊かな教養があって初めて、本質的な「問い」を立てることができます。また、人間は「身体」を持っているからこそ、現場の空気を肌で感じ、他者の気持ちを冷たい論理ではなく温かい「感性」として理解できます。この泥臭い人間的営みこそが、AI時代における学びの重要な焦点となります。
第3段階:プロ
その先にあるのが、第3の段階である「プロ」です。
これからの時代の「プロ」とは、想定外の事態に対処するだけでなく、自ら「想定外」を創り出し、新しい常識や新しい競争原理を生み出すことができる能力を持つ人たちです。
「自分の知っていることは世界のごく一部だ」という「無知の知」を自覚し、現状に満足することなく問い続ける。今の正解が明日も正解であり続ける保証がない不確実な社会をあるがままに受け入れているからこそ、学び続けることができます。
そして新しい常識を生み出すためには、確固たる基礎や基本、深く広い教養が必要です。その上で、AIによる「知的力仕事」を高速で繰り返し、Try and Learnを高頻度で回し続けることができる「Augmented Intelligence(拡張知能)」を自らの知性に組み入れていること。これが真のプロの条件です。
この「拡張(Augmentation)」の重要性について、経営学者トーマス・ダベンポートは著書『AI時代の勝者と敗者』で、AIと向き合う道は「自動化」か「拡張」の二つに一つだと説いています。AIを自らの能力を広げるパートナーとして迎え入れることで、より高度な価値を生み出せます。
また、チェスの元世界王者ガルリ・カスパロフが『ディープ・シンキング』で語った、人間とAIがタッグを組む「ケンタウロス」の例が示すように、「優れたプロセスを持った人間と機械の組み合わせ」は強力な機械単体を凌駕します。
人間が自らの意志と教養で「問い」を立て、AIの力を借りて高速でTry and Learnを繰り返し、新しい価値を創造する。さらに、その結果に当事者として責任を引き受ける覚悟を持つ。このプロセスを構築できる人間こそが、これからの時代を生き抜くことができます。
AI時代を生き抜く学び
フランスの小説家ポール・ブールジェは次のように書き残しています。
「自分の考えたとおりに生きなければならない。そうでないと、自分が生きたとおりに考えてしまう」
日々の雑事に流され、気がつけばそこにそんな自分がいる。それを自分の人生であると受け入れるしかなくなってしまう。本当にそれでいいのでしょうか。主体的に学び、考え、行動する生き方をしなければ、いくら頭の中で願っても、考えたとおりの生き方など決してできません。
特にITの世界などに身を置いていれば痛感することですが、テクノロジーの進化は加速度的であり、その社会的価値はこれまでにも増して大きくなっています。過去のやり方があっという間に変わってしまう時代にあって、かつての大プロジェクトの実績や特定の言語、旧態依然とした開発スキルといった「過去」で評価されることはありません。
いま評価されるのは、激しい変化のメカニズムを理解し、将来に対して明確な展望を持っている人。時代の変化に合わせて自らのスキルを変え続けている人。そして、社外に広い人的ネットワークを持っている人です。すなわち、「過去」ではなく「未来」への可能性を持っている人こそが求められるのです。
あらためて、ご自身に問いかけてみてください。
いまの自分の段階はどこでしょうか。あなたは「ベテラン」であることに満足し、「学び止め」をしてはいないでしょうか。時代の変化は加速度を増しています。あなたの過去の経験や実績は、いまの時代にどれだけ通用するのでしょうか。もはやそれらが「不良債権化」していることに気がつかず(あるいは、そう思いたくないばかりに)、ご自身の判断を歪め、変革の動きの足枷になってはいないでしょうか。
そして、問いかけるとは、ただ頭の中で考えることではありません。考えたことを具体的な「行動」に移してみることです。頭の中で考えているだけでアウトプットがなければ、自分を客観的に「見える化」することはできず、現状を冷静に評価することなどできません。
私たちは今、人生100年時代を迎え、テクノロジーの進化が過去の常識をどんどんと上書きしていく世界を生きています。そんな時代において、自らを客観視し、学び、考え、行動することの大切さは、これまでにも増して高まっています。
どれほどAIが進化しようとも、自らの意志を持って本質的な「問い」を立て、考え、行動し、その結果の責任を負うことができるのは人間ならではのことです。そして、その意志のもとにAIを使いこなし、「Augmented Intelligence(拡張知能)」へと自らをアップデートし続ける人が、これからの社会では強く求められます。
そうした「プロ」としてのあり方こそが、AIを前提とする時代にあって、「自分の考えたとおりの生き方」を自分自身で創り上げていくということなのです。
今、「AIをどう使うか」という段階は終わり、「AIと共にどう変わるか」が問われる時代へと、世の中は大きく変わりつつあります。変化はAIだけではありません。ITの潮流もまた、「レガシーIT」から「モダンIT」へと構造的な転換期を迎えています。
営業職であれエンジニア職であれ、新入社員や若手がこの「現実」を知らないまま現場に出ればどうなるでしょうか。お客様との会話は噛み合わず、信頼を得ることは難しいでしょう。その結果、せっかくの才能を持ちながら、仕事への自信を失ってしまうことになりかねません。
そのような不幸なミスマッチを少しでも減らしたい!この研修は、そんな想いから始まりました。
今年で10年目を迎えますが、これまでの経験を土台に、変化の速いIT常識の全体像を、基礎・基本やビジネスとの関連性とともに分かりやすく紐解きます。さらに、ITプロフェッショナルとしてどう役割を果たし、どう学び続けるべきか、AI時代に即した「すぐに使える実践ノウハウ」も解説します。
お客様の言葉が理解できる。社内の議論についていける。そして何より、仕事が楽しくなる。そんな「確かな自信」を、本研修を通じて手にしていただければと願っています。
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