本来、「老害」という言葉は、1970年代に作家・丹羽文雄が発表した小説『老害』に端を発します。当時、この言葉が指していたのは、周囲への迷惑以前に、長生きすることによって避けられない心身の機能不全や、自らの老いに直面する高齢者自身の「実存的な苦しみ」でした。
つまり、元々は他者を攻撃するためのレッテルではなく、誰にでも訪れる「老い」という残酷な現実に対する、深い悲哀と同情を込めた言葉だったのです。
しかし今、この言葉は全く別の意味で使われています。 「変化を拒む人」「過去の価値観を押し付ける人」「新しい常識を理解しようとしない人」。 そこに年齢は関係ありません。20代や30代であっても、学ぶことをやめ、自分の狭い経験則だけで世界を断じれば、その瞬間にその人は「老害」化します。これを「若年性老害」や「ソフト老害」と呼ぶこともありますが、本質は同じです。
私は、「AI(人工知能)は、この『老害化』という現象を劇的に加速させる」と考えています。
なぜ、AIが「老害」を生み出すのか
理由は単純です。AIが社会の変化のスピードを、人間の生理的な適応能力を超えたレベルまで引き上げてしまうからです。
私たちが「常識だ」「正解だ」と信じて積み上げてきた成功体験が、AIの登場によって、一夜にして「非常識」「無価値」になる。そんなことが頻繁に起こる時代に入りました。
AIが生み出す未来は、一本道の線形な未来ではありません。
それは、以下のようなメカニズムによって、極めて「予測不可能」なものになります。
AIがもたらす予測不可能性の増大
- フィードバックループの発生AIの予測そのものが人間の行動を変え、それがまた新たな現実を作るという循環が生まれ、カオスを生みます。
- イノベーションの連鎖的な加速一つの発明が次の発明を呼び、数年先の社会構造さえ見通せなくなります。
- 社会システムの複雑化あらゆるシステムが密接に連携し、小さな変化が全体に予期せぬ影響(バタフライ効果)を及ぼします。
結論として、これからは従来の予測モデルでは捉えきれない「ブラックスワン(ありえない事象)」が頻発する時代になるのです。
このような環境下では、「昔はこうだった」「俺の経験では」という言葉は、何の意味も持たないどころか、組織や社会にとって有害なノイズになりかねません。
「気づかなかった」は、もはや罪である
かつて日本の常識であった「年功序列」や「終身雇用」は、今や崩壊しつつあり、過去の遺物となりかねません。しかし、その時代を懸命に生きてきた40代や50代の中には、過去の常識と現在の常識の間で気持ちを切り替えられずにいる人たちもいます。
成果主義やジョブ型雇用といった時代の波にうまく適応できない。けれど、組織の中で自分の存在意義や威厳は保ちたい。そんな葛藤の中で、部下や周囲に自分のやり方を押し付け、気がつけば「老害」というレッテルを貼られてしまう。
本人に悪気はないのかもしれません。「世の中が変わったことに気づかなかっただけだ」と言うかもしれません。それは、時代の変化の狭間で生じる、なんとも悲しい現実でもあります。
しかし、厳しい言い方をすれば、今の時代において「変化に気づかない」ことは、不可抗力ではなく「怠慢」です。
情報はこれほどまでに溢れ、学ぶツールは手の中にあります。それなのに、自分のOS(思考回路)をアップデートせず、錆びついた物差しで他人を測ろうとする。
それは、「変化が速すぎてついていけない」のではなく、「変化を直視する努力を放棄した」結果ではないでしょうか。
自ら情報をとりに行き、自分の過去と現在を見比べ、「何が変わったのか」「何が変わらないのか」を日々問い直す。そのアップデートの態度を欠いたとき、私たちは年齢に関わらず、その瞬間に「老害」へと堕ちていくのです。
「AIをどう使うか」から「AIでどう変わるか」へ
では、この加速する変化の中で、どうすれば私たちはアップデートし続けられるのでしょうか。
その答えこそが、AIを徹底的に使い倒すことです。
ただし、ここで言う「使う」とは、「メールの文案を作らせる」「議事録を要約させる」といった、単なる生産性向上の道具としての使い方ではありません。「AIに何ができるか」という問いはもう卒業しましょう。
これからは、「AIを自分の知性を拡張する『第2の脳』として、自分自身を変えるために使う」のです。
呼吸するようにAIを使う
意識して頑張って使うのではありません。息をするように、日常のあらゆる場面でAIを介在させるのです。
- 自分の意見を疑うために使う「私はこう思うが、この意見の欠点は何か?」「反対の立場から反論してくれ」とAIに問いかける。これにより、自分の凝り固まった視点を強制的に広げることができます。
- 「今」の常識を知るために使う「このマナーは今の時代に合っているか?」「この指導方法は、今の若手にはどう受け止められるか?」と問いかける。AIは膨大なデータから、現代の潮流を鏡のように映し出してくれます。
- 思考の壁を突破するために使う自分一人では思いつかないような突飛なアイデアや、全く異なる業界の事例をAIに出させることで、自分の「経験の限界」を突破する。
このように、AIを「視座を高くし、視野を広げるための矯正器具」として常に装着するのです。
変わらぬ価値を見出すために、変わり続ける
誤解してほしくないのは、「古いやり方や価値観がすべて悪い」と言いたいわけではないということです。
ここで、松尾芭蕉が説いた俳諧の理念「不易流行(ふえきりゅうこう)」を思い出してください。 「不易」とは、時代を超えて変わらない本質的なもの。「流行」とは、その時々の新しく変化していくもの。一見対立するように見えるこの二つですが、芭蕉は「新しさを求めて変化し続けること(流行)こそが、結果として変わらぬ本質(不易)を形成する」と説きました。
逆に言えば、変化を拒絶して立ち止まってしまえば、本質さえも古びて腐敗し、守れなくなるということです。
礼節、誠実さ、人への思いやり。これらは、私たちが守るべき「不易」かもしれません。しかし、その表現方法や伝える手段は、AI時代という「流行」に合わせてアップデートし続けなければ、もはや誰にも届かなくなります。
古い殻に閉じこもることは、伝統を守ることではありません。それは単なる「停滞」であり、それこそが「老害」の正体です。
「変わらぬ本質を見出すためにこそ、変わり続ける」
これこそが、AI時代の「老害」化に対する唯一の処方箋です。
AIという強力なパートナーを味方につけ、自分の常識をリアルタイムで破壊と再生させ続ける。そうやって、不確実な未来をしなやかに乗りこなす人こそが、これからの時代のリーダーとなっていくでしょう。
【募集開始】ITソリューション塾・第51期
(2026年2月10日開講)
突然ですが、少しご自身の「常識」のアップデート状況を点検してみましょう。 お客様との雑談や会議で、次のような質問をされたとき、あなたは自信を持って答えられますか?
【初級編】基本の「キ」
まずは、現代のビジネスシーンで頻出するキーワードです。
- 「デジタル化」と「DX」、何が違うのですか?
- 「仮想化」と「コンテナ」、技術的な違いとメリットは何ですか?
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【中級編】トレンドの本質を掴む
続いて、ニュースや現場で飛び交う言葉の「意味」を深く理解しているかどうかの問いです。
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【上級編】未来と社会を見据える
最後は、技術が社会やビジネス構造に与える影響についての問いです。
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いかがでしたか? すらすらと、自分の言葉で説明できたでしょうか。それとも、曖昧な理解であることに気づき、言葉に詰まってしまったでしょうか。
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ITソリューション塾では、最新トレンドを体系的・俯瞰的に学ぶ機会を提供します。さらに、アジャイル開発やDevOps、セキュリティの最前線で活躍する第一人者を講師に招き、実践知としてのノウハウも共有いただきます。
あなたは、次の質問に答えられますか?
- デジタル化とDXの違いを明確に説明できますか? また、DXの実践とは具体的に何を指しますか?
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対象となる方
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業改革や新規開発に取り組む皆さん
- 異業種からSI事業者/ITベンダー企業へ転職された皆さん
- デジタル人材/DX人材の育成に携わる皆さん
実施要領
- 期間:2026年2月10日(火) ~ 4月22日(水) 全10回+特別補講
- 時間:毎週 水曜日 18:30~20:30(※初回2/10など一部曜日変更あり)
- 方法:オンライン(Zoom)
- 費用:90,000円(税込み 99,000円)
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講義内容(予定)
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- コンピューティングの常識を転換する量子コンピュータ
- 変化に俊敏に対処するための開発と運用
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- 【特別講師】経営のためのセキュリティの基礎と本質
- 総括・これからのITビジネス戦略
- 【特別講師】特別補講 (現在人選中)


