「2015年において従来の「営業」ほど無駄で時代遅れなビジネス習慣はない。」
こんな過激な記事に多少の憤りを感じながらも、そこに書かれていることには、なるほどと納得させられました。
言い古された言葉かもしれませんが、「御用聞き営業では通用しない」、「モノ売り営業では生き残れない」などということを聞くたびに、じゃあどういう営業なら生き残れるのかということを考えてしまいます。
インターネットなどなかった時代、営業は、お客様が知らない情報を持つことで、自らの存在意義を保つことができました。このような情報の非対称性が崩れてしまったのが今の時代です。特に、IT業界に於いてはこの傾向は極めて顕著で、企業の公式な情報だけではなく、コミュニティやブログなどのプライベートな情報も広く流通することで、お客様と営業は、情報量という点に於いては対等になってしまいました。また、業務の現場に日々接しているお客様は、課題やニーズを誰よりも知っています。当然、それを解決したいという明確な目的を持って情報を探すわけですから、的確な情報が集まってきます。この点に於いては、お客様が圧倒的に優位な立場にあり、もはや「情報を提供できる」ことで、営業としての存在意義を保つことはできません。
また、見積を作る、契約手続きを行うと言ったことは営業事務であり、Webツールに簡単に置き換えられるし、「こんなことを考えている」、「こんなことで困っている」といった質問に答えるのであれば、Watson君のほうが、遥かに適切なアドバイスをしてくれるようになるでしょう。
また、企業によっては、新規顧客の開拓を営業に依存している企業も少なくありませんが、先に紹介した記事にもありますが、「顧客の購買決定の7割りは営業との対面前に行われている」状況にあっては、リードの獲得に高い営業コストを払うことは合理的ではありません。むしろマーケティングにリソースを配分し、仕組みでリードを獲得するほうが賢明です。
このような状況の中で、営業はどのようにして、その存在意義を見出してゆけば良いのでしょうか。
「あるべき姿」に応える
お客様からPC x 100台の見積依頼を頂いたとしましょう。貴方はこれにどのように応えるでしょうか。必要な仕様を確認し、納期や金額などの諸条件を確認して見積を作っているとすれば、もはや営業がやらなくてもWebツールで代替できます。もし、ここに営業が関わるとすれば、競合他社との値引き競争との駆け引きかもしれません。これとても、お客様からすればめんどうな話ですから、価格.comのようなサービスに頼り、機械的に手続きをすればいい話です。
もし、ここで営業が役割を果たせるとすれば、「なぜPC x 100台なのか?」をお客様に尋ね、その目的、すなわち、お客様が求める「あるべき姿」を明らかにすることでしょう。
例えば、「新商品の発売に合わせて、受注受付のコールセンター要員を100人増やすので、そのためにPC x 100台が必要」ということを教えてもらうことができれば、お客様はPC x 100台がほしいのではなく、「増加する受注に対応すること」が目的であることが分かります。つまり、PC x 100台は、手段であって目的ではないということです。
この目的こそが、お客様が実現したい「あるべき姿」であり、もしその実現のためにもっと有効な手段があれば、そちらを選択したいと思うはずです。
例えば、CRM導入して応対時間を半減できれば、追加要員は半減でき、PCは50台で済みます。人件費という固定費を半減できるばかりか、オフィススペースや設備投資も半減できます。あるいは、業務内容に踏み込んで考え、ビジネス・プロセスを見直すことで、全てをWebでの手続きに変えれば、人件費も設備投資も不要になります。
「PC x 100台」という手段に応えるのではなく、「増加する受注に対応する」という目的、すなわち「あるべき姿」に答えを出せるのは、Webツールや人工知能では困難です。そのためには、お客様の業務や経営に関心を持ち、お客様がもとめる「あるべき姿」を追求する心構えがなくてはなりません。
「未来」に責任を持つ
IT営業は、お客様の3年後に責任を持たなくてはなりません。なぜなら、提案し、実現したシステムは、少なくとも3年程度は使いづけるからです。その3年後にもはや陳腐化し、使い物にならないものであったとしたら、それは無駄な投資であり、お客様に多大な迷惑をかけることになります。
では、3年後に生き残るITの選択肢をどうやって知ることができるのでしょうか。それは、ITのトレンドに関心を持ち、それを追いかけ続けることです。
トレンドを知るとは、最新のキーワードを集めることではありません。歴史を振り返り、その中に「今」を位置付け、「未来」がどうなっているかを知ることです。巷にあふれるITの様々なキーワードは、そんな歴史の必然の中から登場したものです。その必然の理由やメカニズムを知ることでもあるのです。
「ITは変化が激しいのでそんな未来など予測できません」という人がいます。しかし、1975年に出版された「人月の神話」が未だ真実であるように、また、1984年の「失敗の本質」を未だ多くの人が読み続けているように、不変の原則は必ずあります。その一方で、デバイスやアルゴリズムなどのテクノロジーは、急速な進歩とパラダイム・シフトを繰り返し、IT利用の実相を大きく変化させています。この不易(かわらないこと)と流行(かわること)の違いを理解し、見極めることこそ、トレンドを知ることでもあるのです。
3年後に、製品やメーカーの力関係は変わっているかもしれません。また、実装技術も変わっているかもしれません。しかし、実用レベルでの考え方やアーキテクチャーは、3年程度であれば、かなりしっかりと予測できます。そういうことをしっかりと提言でき、お客様をリードすることは、容易に機械に置き換えられることではありません。
「メディア」になる
「人脈」という言葉があります。これは決して、どれだけの人を自分が知っているかではありません。どれだけの人に自分が知られているかです。知られる存在になってこそ、人は相談を持ちかけてくれるのです。こちらがどれだけ知っていようとも、自分が知られていなければ、信頼して話を聞いてはくれません。メディアになるとは、そんな人脈を拡げる活動です。広がった人脈の志を束ね、大きな力にしてゆくことが、営業の役割だといえるでしょう。
情報は検索すれば手に入ります。ならば、その情報の強力な発信源となれば、自ずとお客様は引き寄せられます。お客様に売り込み、相談し、お願いする営業から、お客様を引き寄せ、相談され、お願いされる営業へと変わらなければ、営業としての存在意義を失うことになるでしょう。これこそが、従来の「営業」とこれからの「営業」の本質的な違いになるのです。
ブログやフェイスブックなどソーシャルメディアの普及により、誰もが簡単に自分をメディアにすることができるようになりました。それは、個人ばかりでなく企業もまたしかりです。このような手段を使い、広く不特定多数の人に呼びかけることだけが、メディアになることではありません。自分の担当するお客様を対象とした勉強会、業務や経営に関わる話題についての情報提供など、お客様専属のメディアになることも、ひとつのやり方です。
いろいろなコミュニティや勉強会に参加して、社員や取引関係者以外に知り合いを増やすことも大切です。そういうイベントを自ら仕掛けてゆけば、強力なメディアになることができます。
お客様を先取りして役立つ情報を発信しつづけることで、高い問題意識と志を持つ人たちを引き込み、共感を集めることができます。さらにその輪を拡げ、組織をあげた取り組みに仕立て上げてゆくことができるのです。そういう営業スタイルが、これからは求められてゆくでしょう。それができない受身の営業のままでは、営業としての存在意義を失ってしまうでしょう。
しかし、よく考えてみれば、この取り組みは、「マーケティング」そのものです。ただ明確な違いは、営業目標を達成し、成功をプロデュースすることです。その責任こそ、営業の存在意義であるとすれば、その活動内容に営業とマーケティングを区別する必要はありません。むしろ積極的に、営業とマーケティングの新たな定義と融合をめざすべきかもしれません。
「それは営業の役割ではない。コンサルタントの仕事だ。」
ここにあげた3つの取り組みをご覧になり、もしこのように思われるのであれば、その発想自体が、もはや時代遅れなのです。自身の役割について、このような自己規定を持ち続けている限り、営業として、自らの存在意義を失ってしまうでしょう。
これまでの営業の「当たり前」は、新しい「当たり前」に置き換わります。これまでのことしかできない営業は、稼げない営業として、役割を失ってゆくことになるでしょう。営業という仕事の創造的破壊が進行しているのです。
これを営業というのか、コンサルタントというのかは、あまり意味のあることではありません。ビジネスを獲得し拡大してゆくために、自らの役割を果たしたいのであれば、こんな模索も必要になるのです。
「もはや営業はいらない」。そんな時代に生き残りたいのなら、手段としての「営業」が、時代と共に変わってきたこと、そして、これからも変わり続けることを受け入れなければなりません。しかし、お客様の経営や事業に貢献し、その結果として、自社の業績に貢献するという「あるべき姿」は変わりません。ならば、その時々の最適な手段で、この実現をめざすだけのことです。
「もはやいらない」は、従来の手段やプロセスです。「あるべき姿」が失われないとすれば、営業の存在意義が失われることは、ありません。
【多数のお申し込みありがとうございます】ITソリューション塾・第19期
ITソリューション塾・第19期の募集を開始しました!おかげさまで、多くの皆様にお申し込みをいだいております。
- 期間:2015年2015年5月21日(木)〜7月22日(水) 毎週2時間x10回
- 場所:市ヶ谷・東京
- 講義資料(パワーポイント:約500ページ)はロイヤリティフリーにてダウンロード
第19期は、基幹業務での利用が加速するクラウドの新たな位置付け、IoTやアナリティクスについて、これまで以上に掘り下げてみようと思います。また、ビジネス戦略の策定やIT人材のあり方や育成についても考えます。
また、DevOpsやアジャイルはもはや外せないテーマです。実践ノウハウにまで踏み込んで、専門家による特別講演を予定しています。セキュリティは、「起こさないための対策」と「起こってからの対策」を体系化して解説します。前者はテクノロジーや業務運用、後者は法律専門家や広報ということになるでしょう。
セクシーな提案書の作り方、顧客満足の科学など、お客様との応対力を高める実践ノウハウも解説します。
定員は60名を予定しています。比較的早い段階で定員を超えることが予想されますので、まだ未定の場合でもご意向だけメールにてお知らせ頂ければ、参加枠を確保させて頂きます。
詳細な日程や内容につきましては、こちらをご覧下さい。
こんな方に読んでいただきたい!
- IT部門ではないけれど、ITの最新トレンドを自分の業務や事業戦略・施策に活かしたい。
- IT企業に勤めているが、テクノロジーやビジネスの最新動向が体系的に把握できていない。
- IT企業に就職したが、現場の第一線でどんな言葉が使われているのか知っておきたい。
- 自分の担当する専門分野は分かっているが、世間の動向と自分の専門との関係が見えていない。
- 就職活動中だが、面接でも役立つITの常識を知識として身につけておきたい。
「【図解】コレ1枚で分かる最新ITトレンド」に掲載されている100枚を越える図表は、ロイヤリティ・フリーのパワーポイントでダウンロードできます。自分の勉強のため、提案書や勉強会の素材として、ご使用下さい。
目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン