「スマホやパソコンは鞄にしまって下さい。講師の講義に集中して下さい。」
私が講師を務める新入社員研修の冒頭で、その会社の研修担当者からこんな注意が伝えられました。
「しまった!」と思いました。事前に話をしておくべきでした。そして、私は講義の冒頭で、次のような話をしました。
「いま、パソコンやスマホをしまうようにとありましたが、その必要はありません。どうぞ自由に使って下さい。私の話しで分からないことがあれば直ぐに調べて下さい。面白いなはなしだなぁと思ったらLINEやTwitterで共有して下さい。スライドを写真に撮りたければどんどん撮って下さい。せっかく持っている道具を最大限に利用することも、大切な勉強ですから。」
受講生たちの顔色が、パッと明るくなりました。当然のことです。それが彼らの常識であり、日常だからです。そして、とても理にかなっています。その方が効率も良く、知識の定着にも役立つからです。しかも彼らはうまく使いこなせるのです。
「内職をさせては講師に失礼だ」というご厚意はありがたいのですが、内職をさせてしまうのは、講義が面白くないからです。面白ければ内職なんかできません。
パソコンやスマホがなかった時代の常識をいまだ無批判に踏襲し、いつしか「研修ではペンとノートを使うこと」が正しい行為となってしまっています。そういう、考え方はそろそろ改めるべきではないでしょうか。
私は数年前、とてもショッキングな体験をしました。それは、私の講義を一番前で熱心に(?)聴いている受講者が、ずっとスマホをいじって”遊んでいる”のです。たまりかねて注意すると、
「すいません。講義のメモをとっていました。」
ガツンと打ちのめされました。私は、すぐに彼に謝罪し、続けてもかまわないと伝えました。それ以来、冒頭のようなことを伝えるようにしています。
もはやかれらは異星人です。表向きはおじさんという地球人に合わせてくれてはいますが、その本質は異なる価値観と感性を備えています。共通するところは、
- 正直であること
- 世のため人のためであること
- 達成の喜びを感じられること
などといった人間としての本源的価値観です。残念ながら、彼らの本性であるデジタル・ネイティブな感性はなかなか理解できません。
それは仕方の無いことで、いつの時代も同じことを繰り返してきました。むしろ、そういう世代間の感性の戦いを通じて、彼らは社会の現実を知り、社会人とはどう振る舞うべきなのかを学んでいくのです。そしてまた、おじさんたちも彼らから学んでゆかなければなりません。
ただ、そんな彼らに教えている新入社員研修の内容が、あまりにも古くさく、それでいいのかと思うことがよくあります。これは、大いに反省すべきことです。
例えば、コンピューターの五大機能、バッチ処理やリアルタイム処理、集中処理と分散処理など、40年前のテクノロジーについて講義し、その先を教えないまま現場の実践に送り出していることです。
例えば、仮想化については「ハイパーバイザー仮想化」が語られる程度で、コンテナについて語られることはありません。SDIやHCIについての説明もありません。クラウドについても「そういうサービスがある」程度に留まっているテキストを見て唖然としたことがあります。ましてやIoTやAIなどはどこにも触れられることはありません。
この事実を裏返して考えれば、
「そんなことは知らなくても仕事にはこまらない」
工数としての従順なコーダーを育てるのに最新のテクノロジーなど必要ありません。むしろ、真実を知ってしまって自分たちがやっていることが、どれほど時代の流れから取り残されているかに気付かれないほうがいいということのなのかもしれません。しかし、これでは、彼らに未来を託すことなどできません。
「基礎」を教えるなということではなく、「基礎」は時代と共に変えるべきだということです。
現場に出て当たり前に飛び交っているIoTやAI、クラウドはもはや前提の時代です。そんな彼らに最低限の「基礎」を教えることが新入社員研修の目的であるとすれば、これらを伝えるべきではないでしょうか。
では、どんな講義を行うべきなのでしょうか。
正直に過去・現在・未来を教える
自社の未来を託す人たちにいまの時代を伝え、ITが拓く夢ある未来と可能性について伝えなくてはなりません。
SIビジネスは過去の歴史を振り返れば、日本の情報化に大いに貢献してきました。その栄光を自社の歴史と共に伝えることは、そこに入社した人たちに誇りを持たせることになるでしょう。しかし、事業価値がテクノロジーの提供能力から工数の提供能力へと変わり、企業としての存在意義が問われていること、そして、いまの自分たちの事業価値を転換してゆかなければならないことを正直に伝えてはどうでしょう。その難しさも伝えなくてはなりません。
だからといって、自分たちのビジネスに可能性がない訳でありません。むしろ、「ITと一体化したビジネス」への潮流はますます勢いを増してきます。その本流にあるAIやIoT、クラウドなどがどのような未来をもたらすのか、その価値や可能性について伝えることができなくてはなりません。
大きく開けた未来に夢や期待を持たせ、そんなこれからの時代を切り拓くのが彼らの役割であることを伝えては如何でしょうか。
IT業界で働くことの意味を伝える
ITはこれまでの非常識を覆し、新しい常識へと置き換えてきました。いまの勢いは、IBMのメインフレームが登場した1960年代以降のITの歴史の中でも特異とも言えるほど爆発的で多様です。そして、もはや世界はソフトウェアでできていることを伝えるべきなのです。
不可能が可能になり、かつての常識が崩壊し、ITが新たなビジネスの可能性を切り拓いています。UberやAirbnb、GoogleやAmazonなどが世に問うデジタルビジネスは、人間が手作業で行っていたビジネス・プロセスをデジタル・ネイティブなビジネス・プロセスに置き換え、既存の常識を破壊してしまいました。そんな時代の最先端に関われることの意義を考えさせることが大切です。
過去の仕事の引き継ぎも必要なことかもしれませんが、それらはいずれなくなってゆくものです。そんな仕事は過去を作り上げたおじさんたちに任せておき、新しいデジタル・ネイティブな仕事にどんどん関わらせてゆくべきです。
彼らから未来を学ぶ謙虚さを持ち正直に向き合う
教える側も自らの価値観を正直に伝え、ぶつかることだと思います。その上で、彼らの言葉に耳を傾け、かれらからいまや未来を学ぶ謙虚さが必要です。そして、お互いを理解し合う公平さが必要です。
経験者だから、世の中を知っているからと偉そうな態度をとることでしか権威を示せないとすれば何とも残念なことです。確かに世の中を知っているかもしれませんが、それはしょせん過去の世の中です。いまの世の中を、自信を持って知っていると言い切れないのなら、それを素直に受け入れる態度も必要です。そして、いまを学び自信を持って彼らに伝える勇気と謙虚さが必要です。
彼らのことを「若い=安い労働力」として、捉えてはいないでしょうか。人月工数のビジネスが先細る中、彼らが新しいこと、イノベーションの源泉であると捉えなくてはなりません。そして、高い技術力だけではなく高いモチベーションも併せ持った人材を育ててゆく場が、新入社員研修なのです。
このようなことへの時間や投資を渋るSI事業者は、新製品開発のための研究開発に投資をしない製造業と同じです。いずれお客様から見放されてしまうでしょう。
変化はいつの時代にもありました。これからも続くでしょう。そんな変化の潮流を教え、読み解く力を彼らに学ばせなくてはなりません。内定式も終わり、そろそろ新入社員研修の準備に取りかかっている企業も少なくないでしょう。しかし、その研修がいまの時代に合った「基礎」を教えるものになっているのかどうか、いま一度、問い直してみてはいかがでしょうか。
もちろん「新入社員研修」だけで、未来を託せる人材が育てられるわけではありません。しかし、社会人として第一歩を記した彼らに、夢のある未来を示し、彼らの進むべき方向を示せば、彼らを自律的な成長の軌道に乗せることができます。そして、そういう機会を提供してくれる会社への信頼を育むことができるのです。
それができなければ、自分たちに未来はないと悟るべきです。
2月14日(水)よりスタートする次期「ITソリューション塾・第27期」の受付を開始致しました。
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日程 2018年2月14日(水)~4月25日(水) 18:30~20:30
回数 全11回
定員 80名
会場 アシスト本社/東京・市ヶ谷
料金 ¥90,000- (税込み¥97,200) 全期間の参加費と資料・教材を含む
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【お願い】早期に定員を超えると思われますので、まだ最終のご決定や参加者が確定していない場合でも、ご意向があれば、まずはメールにてご一報ください。優先的に参加枠を確保させて頂きます。
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第27期は、これまでの内容を一部変更し、AIやIoTなどのITの最新トレンドについての解説と共に、そんなテクノロジーを武器にして、どうやって稼げばいいのかについて、これまで以上に踏み込んで考えてゆこうと思います。また、働き方改革やこれからのビジネス戦略についても、皆さんに考えて頂こうと思っています。
SI事業者の皆さんには、これからのビジネス戦略やお客様への魅力的な提案を考える材料を提供します。
情報システム部門の皆さんには、自分たちのこれからの役割やどのようなスキルを磨いてゆく必要があるのかを考えるきっかけをご提供します。
講義で使用する500ページを超える最新のプレゼンテーションは、オリジナルのままロイヤリティ・フリーで提供させて頂きます。お客様への提案、社内の企画資料、イベントでの解説資料、勉強会や研修の教材として、どうぞ自由に活用してください。
古い常識をそのままにお客様の良き相談相手にはなれません。
「知っているつもりの知識」から「実践で使える知識」に変えてゆく。そんなお手伝いをしたいと思っています。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
2017年12月版・改訂/追加リリース
最新版【12月版】を更改しました
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・量子コンピュータのプレゼンテーションを追加しました。
・各チャートの解説文を大幅に追加・改訂しました。
・デジタル・トランスフォーメーションについて追加・改訂しました。
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サンプル:量子コンピュータ
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRAよりロイヤリティフリーにてダウンロードできます。ほかにも、3000ページほどのプレゼンテーションやドキュメントがロイヤリティフリーでダウンロード(パワーポイント形式、ワード形式、エクセル形式)できます。
今月度の追加・更新の詳細は以下の通りです。
ビジネス戦略
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションの意味 p.5
【新規】デジタル・トランスフォーメーション実践のステップ p.11
【新規】デジタル・トランスフォーメーションとは p.12
【新規】SIビジネスのデジタル・トランスフォーメーション p.13
【改訂】SIビジネスの変革を牽引するトレンド p.16
【新規】収益を生みだすビジネス構造 p.17
【新規】働く現場で何が起こっているのか? P.33
【新規】SI事業者の「働き方改革」 p.34
【新規】「働き方改革」で何を目指すのか p.35
開発と運用
【改訂・解説文】情報システムにもとめられる品質 p.5
【改訂・解説文】これからの開発と運用 解説文の改訂 p.6
【改訂・解説文】開発と運用の関係や役割を変革するDevOps p.25
【改訂・解説文】コンテナとDevOpsの関係 p.36
【改訂・解説文】コマイクロサービス p.38
【改訂・解説文】イベント・ドリブンとコレオグラフィ p.39
【改訂・解説文】超高速開発ツール p.41
【改訂・解説文】コレ1枚でわかるFaaS p.42
【改訂・解説文】これからのITとITビジネス p.48
【改訂・解説文】SRE(Site Reliability Engineer) p.49
【改訂・解説文】APIエコノミー p.51
インフラとプラットフォーム
【改訂・解説文】サーバー仮想化とコンテナ p.95
【改訂・解説文】デスクトップ仮想化とアプリケーション仮想化 p.97
【改訂・解説文】ストレージの仮想化 p.102
【改訂・解説文】SDNとNFV p.103
【改訂・解説文】SD-WAN p.104
【改訂・解説文】サーバー仮想化の3つのメリット p.106
【改訂・解説文】コンバージド・システムとハイパーコンバージド・システム p.135
【改訂】ストレージ性能の推移/1台当たりの容量 p.214
【新規】インフラでの重複排除/圧縮 p.220
テクノロジー・トピックス
【改訂・解説文】「ムーアの法則」と「メトカーフの法則」 p.5
【改訂】VRとARとMR (MRを追加、チャートと文言を改訂) p.14
【新規】従来の方法(集中台帳)とブロックチェーン(分散台帳) p.37
【新規】「量子コンピュータ」についての新章を追加 p.66〜79
量子コンピュータの必要性
これまでの古典コンピュータで解けない問題
循環セールスマン問題(組み合わせ最適化)
量子コンピュータとは何か
量子力学
量子コンピュータの適用分野
BitとQubit
量子コンピュータが高速で計算できる理由
量子コンピュータの種類
量子コンピュータの現状
自然現象を借用したアルゴリズム
量子イジングマシンとスパコン
D-Waveの計算原理
ITの歴史と最新のトレンド
*追加・変更はありません
サービス&アプリケーション・先進技術編/人工知能
*追加・変更はありません
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
*追加・変更はありません
サービス&アプリケーション・基本
*追加・変更はありません
クラウド・コンピューティング
*追加・変更はありません