「最近、AIをはじめ新しい技術が目白押しで、とてもついていけません…」
先日お会いした、IT企業に勤める50代の管理職の方が、寂しそうにこう漏らしました。それは謙遜ではなく、切実な本音のように私の耳には響きました。
経験の浅い若手社員が同じように嘆くなら、そこには「何とか追いつきたい、どうすればいいですか?」という未来への問いが含まれています。しかし、豊富な経験を積んできたはずの彼の言葉には、どこか諦めにも似た悲哀が漂っていました。
「ついていけない」では済まされない、ルールの激変
もちろん、これまでも変化のない時代などありませんでした。しかし、今我々が直面しているのは、単なる新しい技術の登場ではありません。AIというゲームチェンジャーの出現は、これまでのビジネスの前提や常識そのものを、根底から覆そうとしています。
これは、スマートフォンの登場が社会の仕組みを変えた以上の、地殻変動と言えるでしょう。そして、その変化は恐ろしいほどの加速度を増しています。昨日までの正解が、今日にはもう通用しない。そんな時代において、ほんのわずかな躊躇や足踏みが、気づいたときには取り返しのつかないほどの大きな格差となって現れてしまうのです。
「新しいことなんか分からなくても、課長や部長になれた」という過去の成功体験は、残念ながら未来を保証してはくれません。その役職は、多くの場合、その会社に長くいたというだけで与えられた、社内だけで通用するローカルな称号にすぎないからです。
仕事を奪うのはAIではない
「AIに仕事が奪われる」という言葉をよく耳にしますが、本質は少し違います。正しくは、「AIに仕事が奪われる」のではなく、「AIを使いこなせない人が、使いこなせる人に仕事を奪われる」のです。
このAIによる急激な進化は、現状維持を前提に、単に効率化や生産性を高めるためのものではありません。これは、社会やビジネスの「前提」そのものが変わる地殻変動です。AIを前提に、新しい業務の仕組みやビジネスモデル、お客様が求める価値やお客様との関係、私たちの働き方や業績評価の基準など、ことごとくを根本的に作り変えようという大きな変化のうねりが起きているのです。
かつて、パソコンは人の仕事を奪ったでしょうか?いいえ、違います。パソコンを使うことが仕事の「前提」となり、使えない人は仕事のスタートラインにすら立てなくなったのです。AIもまた、ビジネスの「前提」となりつつありますが、そのインパクトは桁違いです。パソコンが既存業務の「効率化」だったのに対し、AIは業務の「再定義」と新たな価値創造ルールの「創出」を迫ります。その変化のスピードと影響範囲は、比較になりません。
なぜ「私の専門は管理職です」という答えが、もはや通用しないのか
以前、転職相談に来られた50代の部長職の方に「あなたの専門分野は何ですか?」と尋ねたことがあります。彼は、こう答えました。
「管理職です」
彼が誇らしげに語る「〇〇プロジェクトを成功させた」という輝かしい「体験」。それは確かに素晴らしい思い出であり、社内での金字塔だったのでしょう。しかし重要なのは、その一度きりの「体験」を、他の場面でも通用する普遍的な「経験」や、誰でも再現可能な「メソッド」にまで昇華できているかです。それができていなければ、いくら輝かしい実績であっても、その会社でしか通用しない自己満足の思い出話に過ぎません。
「管理職」という役割も、AIによる業務の自動化・効率化が進む中で、その定義が大きく変わろうとしています。もはや、全員が同じ方向を向き、全力で駆け抜けることで成果を出せた時代は終わりました。不確実性が高まり、急速な変化に俊敏に対処するためには、いかにして現場の自律を促すかが、管理職の最も重要な仕事となったのです。
そのためには、多様性を積極的に受け入れ、個々の強みを活かす能力が求められます。もちろん、愛情あふれる叱咤激励や、酒を酌み交わしながらの人生相談の価値がなくなるわけではありません。しかし、データを元にした最適な人員配置や進捗管理はAIが得意とするところであり、情熱や根性論だけでは、もはや管理職の役割は果たせないのです。これからの管理職の仕事とは、心理的安全性を確保し、メンバーの創造性を引き出し、自律的なチームを育てること。あなたは、これまでそのような管理職としての仕事をしてきたでしょうか。
「管理職」という言葉が意味する役割そのものが、AIの登場によって劇的に変化しているのです。かつての定義のままでは、もはや市場価値のある専門性とは見なされなくなっています。
「追いつけない」のではなく「追いつこうとしない」だけ
「世の中の変化が速すぎて追いつけない」という言葉は、一見もっともらしく聞こえます。しかし、それは「追いつこうと努力するのをやめた」という意思表示に他なりません。それは、変化に対応できない理由を自分ではなく、世の中のせいにする「理由の付け替え」に他ならないのではないでしょうか。
誰もが、必死にもがきながら時代の変化に食らいついています。それができなくなった時が、ビジネスパーソンとしての「あがり」なのかもしれません。人生100年時代、会社が定年まで面倒を見てくれるという幻想は消え去りました。次のステージでも輝き続けるためには、今こそ勇気を持って自分自身を棚卸しする必要があります。
今すぐ始めるべき、自分をアップデートする3つの行動
では、この変化の波を乗りこなし、未来の選択肢を自ら作り出すために、何をすべきか。過去の栄光や社内の役職といった「鎧」を脱ぎ捨て、価値ある人材であり続けるために、今日から始められる3つの具体的な行動を紹介します。
- 【つながり】越境する 会社の同僚や顧客といった「いつもの人々」との付き合いから一歩踏み出し、多様な価値観を持つ社外の人々と積極的に繋がりましょう。異業種交流会、セミナー、オンラインコミュニティなど、手段は無数にあります。自分という存在を、会社というモノサシではない、多様な視点から捉え直すきっかけになります。
- 【独学】自腹を切る 会社が用意してくれる研修を待つのではなく、自らの意思で学びましょう。ChatGPTが話題なら、まずは使ってみる。DXが叫ばれるなら、関連書籍を読み漁る。YouTubeで気になる専門家の話を聞く。大切なのは、自分の懐を痛めてでも学ぶという当事者意識です。その危機感が、知識を血肉に変えます。
- 【アウトプット】発信する 学んだこと、考えたことを、ブログやSNS、勉強会といった場で発信し、世間の評価に晒してみましょう。インプットだけでは、知識は自分のものになりません。他者からのフィードバックを得て初めて、独りよがりではない客観的な視点と、普遍的な「経験」が身につきます。
「これまで会社のために頑張ってきたのだから、報われて当然だ」
残念ながら、もうそんな時代ではありません。ここで、ひとつの厳しい現実を直視すべきです。それは、あなたのために会社が存在しているわけではない、ということです。会社は社会のために存在し、社会に価値を提供できなければ存続できません。自分は、この当たり前の事実をどれだけ意識して仕事をしてきただろうか?そう自問してみてください。「会社のため」だけに尽くしてきた「会社人」としての報いは、結局のところ、その会社でしか通用しない肩書きだけなのです。しかし、会社というフィールドを使いながらも、常に「社会人」として世に通用する価値を磨き続けてきた人には、自らの意志で未来を選ぶ、無限の選択肢が広がっています。
あなたの人生の舵を握れるのは、あなたしかいません。その第一歩は、今の自分を客観的かつ正直に受け止めること。AIの進化という厳しい現実は、傍観者でいることを許してはくれません。変化の波に飲み込まれるのか、それとも波を乗りこなし未来の主導権を握るのか。その選択は、今日のあなたの行動にかかっているのです。
8月8日!新著・「システムインテグレーション革命」発刊します!
AI前提の世の中になろうとしている今、SIビジネスもまたAI前提に舵を切らなくてはなりません。しかし、どこに向かって、どのように舵を切ればいいのでしょうか。
本書は、「システムインテグレーション崩壊」、「システムインテグレーション再生の戦略」に続く第三弾としてとして。AIの大波を乗り越えるシナリオを描いています。是非、手に取ってご覧下さい。
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本研修では、そんないまのITの常識を踏まえつつ、これからのITプロフェッショナルとしての働き方を学び、これから関わる自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうことを目的としています。
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