「ところで、何を売りたいのでしょうか?」
新規事業を検討しているので話しを聞いて欲しいとのご相談を頂いた。そして話しを聞いたのだが、いったい何をしたいのか、何を売りたいのかが、一向にわからない。
「世の中にどのようなニーズがあるかは分かりました。皆さんが、何ができるかも分かりました。ところで、皆さんは何をしたいのでしょうか?」
まだそこまでは考えていないという。
「こんなことをしたい!」
この想いがあってこそ、新規事業が生まれる。この想いが強ければ強いほど、知恵も生まれ、成功の可能性を引き寄せることができる。その一丁目Ⅰ番地がない新規事業などうまくいくはずがない。
ものごとを分析するとは、過去から現在を捉えようとすることであり、そこから新規性が生みだされることはない。世の中のことや自分たちのことを、いくら頭を使っていくら分析しても、見えないことがたくさんあるということだ。
もっといまの現場に寄り添うことだろう。そこにはこれまでの視点や枠組みでは整理することのできない「もやもや」や「曖昧さ」があるはずだ。それこそが、新規事業のターゲットである。
だから、現場を観察し、共感し、試行錯誤して、そこにこれまでにはなかった新しい視点や枠組みを持ち込んで、これまでにはなかったビジネスをデザインすることができなくては新規事業にはならない。このやり方なら、「もやもや」や「曖昧さ」が解決できて、現場は大助かり、大喜び間違えない。その確信を持って、なんとしても「こんなことをしたい!」を見つけることが、まずは起点であろう。これを方法論として整理したのが「デザイン思考」である。
現場のリアリティに裏打ちされた「こんなことをしたい!」のない新規事業など、うまくいくはずのないことは、容易に想像がつく。それにもかかわらず、自分たちのできることと一般論を分析し、それを都合良くつなげて、新しい事業を描き、あたかも大きな可能性があるかのような合理性のある事業計画を作ってしまう人たちを数多く見てきた。
ではなぜ、そんなことをしてしまうのだろう。それは彼らの目標が、「新規事業」を作ることではなく、「新規事業計画」を作ることになっているからだろう。そうなってしまうのは、彼らの組織のミッションが「新規事業を立ち上げる」ことになっているからだ。「こんなことをしたい!」というパッション、言葉を換えれば内発的動機付けのない人たちが、やらされ仕事でやらされているので、何かカタチにしなければ仕事をしていることにならない。だから「新規事業計画」を作ることで自分たちの存在証明をしているのだとすれば、つじつまが合う。
目標設定をすればするほど、どうしても効率性を追いかけてしまう。新規事業とは、効率性とは裏腹な関係にあり、失敗やムダを重ねるからこそ見つけられるものだ。この現実を受け入れることなく、効率的に「新規事業」を作ろうとするが、そんなものはできるはずはなく、カタチばかりの「新規事業計画」をつくることで、自分たちの本来のミッションをすり替えてしまっているのではないか。
そんな「新規事業計画」には、経営者が納得できる合理性がなくてはならない。そのためにはこれまでの実績や既存の顧客、巷の話題など、経営者の知っている言葉や数字をつなぎ合わせ、相手に無用なストレスを与えず、すんなりと納得してくれそうな「新規事業計画」を作ろうとする。
わかりやすいことやロジックが優先され、それにそぐわない事実は切り捨てられてしまう。その結果、自分たちのできることや既存顧客といった事業資産に都合が良い市場を創造し、その市場でこちらに都合の良いように振る舞ってくれる顧客を創造し、その市場や顧客に都合の良いデータとその解釈を与えることで、いかにもうまくいきそうな「新規事業計画」を創造してしまう。
経営者がこれを見て「これはいいじゃないか」などと言おうものなら、もはやその計画に新規性がないということを証明したようなものだ。どこかで聞いたことがある、過去に似たような成功事例があったから、こんな反応をする。もし、本当に新規性があれば、経営者には理解できず、「なんだこれは?」という反応がまずは返ってくるだろう。そうならないように計画を立てるわけだから、こんなことになっては「新規事業計画」としては失敗であり、そうならないように最善の努力をする。そんな新規事業がうまくいくはずはない。
新規事業とは、新たな市場や顧客の開拓なわけだから「既知」や「既存」がそのままでは使えない。それにもかかわらず、既知や既存と同じ基準で、ロジカルにリスクを排除しようとすれば、自ずと新規性は取り除かれてしまう。
決して、数字的裏付けやKPIの設定を軽んじているわけではない。しかし、そもそも新しい事業なのだから市場も分からなければ数字もない。だから、試行錯誤を繰り返しながら改善を重ねてゆくしか方法がない。ある程度、ビジネスが軌道に乗り始めてやっと数字が予測できる。そうなれば、KPIも設定できるだろう。
このような「新規事業」を既存事業の計画と同じフォーマットで描かれていなければ承認しないとすれば、いつまでたってもまともな「新規事業」は生まれないだろう。当然、業績評価基準も売上と利益ではうまくいかない。どれだけ失敗したか、どれだけ顧客アクセスしたか、どれだけ試してみたかを基準にすべきだろう。「業績評価基準は売上と利益」という思考停止では、現場は頑張れば頑張るほどに自らの業績評価を下げるわけだから、モチベーションなど生まれるわけがない。
昨今流行の「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」も、うまくいかない「新規事業」と同様の枠組みですすめられているように思えて仕方がない。
「DX推進本部」やら「DX開発室」といった類の組織が、どんどんと作られているが、やっていることは、市場の調査や分析であり、「デジタル・トランスフォーメーションとは何か」の議論でしかない。そして、いろいろと計画を立ててはみるものの、お客様の現場に入り込んで、「もやもや」や「曖昧」を実感することはなく、机上の「思考実験」の域を出ていないことも多いようだ。ほんとうに作って、試して、失敗して、現場の実感を得ていないのだ。
「DX事業を実践するのは事業部門の仕事ですから、私たちは世の中の動向を調査し、どのような取り組みをすすめればいいのか、アドバイスして支援することです。」
自分たちが「もやもや」や「曖昧さ」といった現場を実感せず、試行錯誤もせず、「こんなことをしたい!」というパッションや内発的動機付けのないのに、アドバイスや支援ができるのかと思うのだが、組織の建て付けとしては、そういうことになっているのだそうだ。
DXは流行なので、うちも取り組まなければ出遅れてしまう。そんな焦りからなのかも知れないが、「DXごっこ」をやっていているように思えしまうのは、私だけであろうか。
異業種からの参入、市場や顧客嗜好の流動性と多様化は、ビジネスの不確実性をこれまでになく高かめている。そんな時代に対処するには、もはやこれまでのアナログなやり方では対処できず、デジタル・テクノロジーを駆使して、ビジネス・スピードを圧倒的に速め、変化に俊敏に対応できる企業文化や体質を築いてゆくしかない。DXとはそんな取り組みを意味する言葉だ。
そんなDXの本質を突き詰めることもなく、AIやIoTを使った新規事業を立ち上げることをDXと称しているユーザー企業、その同じ視点でDX事業やDX案件と称し、新たな案件獲得の切り口と考えるSI事業者。これでは、いつまで経ってもDXが実現することはないだろう。
本質を見極め、現場に共感し、内発的動機付けに裏付けられた取り組みこそが、ビジネスを変革し、新しいビジネスを生みだす原動力となる。
「DXごっこ」はやめようではないか。もう、そんなことを言っている余裕はないはずだ。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
【7月度のコンテンツを更新しました】
=======
- RPAのプレゼンテーションに新しい資料を加えました。
- 講演資料:「デジタル・トランスフォーメーションの本質と「共創」戦略」を追加しました。
- 動画セミナーを3編追加いたしました。
=======
総集編
【改訂】総集編 2019年7月版・最新の資料を反映しました。
動画セミナー/ITソリューション塾・第31期
【改訂】IoT
【改訂】AI
【改訂】コレからの開発と運用
ITソリューション塾・最新教材ライブラリー/ITソリューション塾・第31期
【改訂】IoT
【改訂】AI
【改訂】コレからの開発と運用
ビジネス戦略編
【新規】OMO(Online Merges with Offline) p.5
【新規】デジタル・トランスフォーメーションとOMO p.16
【新規】デジタイゼーションとデジタライゼーション p.22
【新規】DX事業とは p.43
【改訂】DXを支えるテクノロジー p.55
【新規】Legacy ITとModern IT p.54
【新規】事業戦略を考える p.79
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】IoTセキュリティ p.82
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】特化型と汎用型の違い p.13
【新規】ルールベースと機械学習 p.73
【改訂】知能・身体・外的環境とAI p.80
【改訂】機械と意識とAI p.81
【新規】学習と推論の関係 p.79
【新規】創造力とは何か P.114
ITインフラとプラットフォーム編
*変更はありません
クラウド・コンピューティング編
【改訂】クラウド・サービスの区分 p.43
【新規】なぜクラウド・ネイティブにシフトするのか p.105
サービス&アプリケーション・基本編
Frontier One Inc. (鍋野敬一郎氏)より提供の資料
【新規】ERPの進化 :業務システムの寄せ集めから次世代ERPへ p.18
【新規】SAPの提唱するインテリジェンス・エンタープライズp.19
【新規】SAPにおけるAIの定義(2018)p.20
【新規】SAP Leonardo :ERP+機械学習p.21
【新規】SAP Leonardo : ERP + AI = Intelligent Apps ! p.22
開発と運用編
【改訂】ビジネス・スピードを加速する方法 p.41
ITの歴史と最新のトレンド編
*変更はありません
テクノロジー・トピックス編
Facebook LIBRA
【新規】LIBRA協会の参加企業 p.52
【新規】LIBRAとは p.53
【新規】LIBRAとBit Coin との違い p.54
【新規】LIBRAへの懸念 p.55
RPA
【新規】AI-OCRの事例 p.25
【新規】導入上の留意点 p.26
【新規】成果をあげるための取り組み p.27
【新規】プロセス・マイニングとRPA 32
講演資料:デジタル・トランスフォーメーションの本質と「共創」戦略