「マシンは答えに特化し、人間はよりよい質問を長期的に生みだすことに力を傾けるべきだ。」
“これからインターネットに起こる『不可避な12の出来事』“の中で、ケビン・ケリーが述べた言葉です。
例えば、銀行の窓口で応対していた行員がATMに置き換わったように、駅の改札で切符を切っていた駅員がICカードのタッチに変わってしまったように、やり方が決まっている仕事は機械に置き換わってゆくのは歴史の必然です。それがテクノロジーの発展によって、より複雑な業務にも適用の範囲が拡がりつつあります。
例えばシステム開発では、GitHub Copilot WorkspaceやDevineなど、何をしたいかを入力すれば、仕様書を作成し、計画を立て、コードを生成し、デバッグし、プルリクエストまでやってくれるツールも登場しています。
一方で、「何に答えを出すべきか」を問うことは、これからも人間の役割です。例えば、プログラミングやテスト、運用管理などの知的力仕事は機械に任せ、「どんなシステムを作ればビジネスの成果に貢献できるのか」、「どのようなビジネス・モデル、ビジネス・プロセスにすれば成功するのか」、「現場の要請にジャスト・イン・タイムでサービスを提供するにはどうすればいいのか」といった問いを発することが人間の役割となります。このような役割のシフトが、一気に加速するでしょう。
2024年9月12日、OpenAIは、最新の生成AIモデル「o1」を発表しました。新モデル「o1」は、複雑な学術タスクや推論において非常に高いパフォーマンスを発揮しています。この能力を生みだしている理由を端的に表現すれば、「論理的推論」を実現したことでしょう。
これまでの生成AIモデルは、「言葉のつながりの流暢さ」を実現することを目指してきました。もちろん、「言葉のつながりの流暢さ」は、”概ね”論理的正しさとも一致しているので、その論理もまた正しいと言うことになっていたわけです。だからとぃって、論理的な正しさを保障するものではなく、たまたま(といってもかなりの高い確率で)論理的に正しかったに過ぎません。
一方、このo1は、「論理的な正しさを検証する思考能力」を持っているという点が、これまでとは一線を画すところです。まだプレピュー段階ですから、それらが広く使われ始めているわけではありませんが、これが様々なサービスに組み込まれるようなことになれば先に示した、プログラミングやテスト、運用管理などの知的力仕事を人間に任せない方が、確実な仕事をしてくれるというのは、容易に想像できます。そのための時間は、さほどかからないでしょう。
当然のことですが、SI事業者は、人間の労働力、すなわち工数を収益のかなりを頼っています。これが頼れなくなることは火を見るより明らかです。特に、二次請け、三次請けといったことを生業にしている企業にとっては、致命的な状況に陥るでしょう。
また、こういう生成AIツールを駆使したシステムの開発や運用ツールは、ユーザー企業の内製化を拡大させます。それは、「技術的に難しいので、専門の事業者に任せる」必要がなくなるからです。
これに対処経営や業務の源流に関わり、そこから生みだされた問いをいち早くビジネスの現場に投入するためのプラットフォームや方法論を手に入れ、そこに収益の基盤を見出さなくてはなりません。
例えば、圧倒的な技術力を武器に、内製化を支援し、デジタル前提にビジネスの変革を支援する、そのための最適なシステム・アーキテクチャーの構築や運用を設計すること、あるいは、これまで自分たちが関わってきた業務ノウハウを活かし、そこにAIを組み合わせて、なんらかのサービス・プラットフォームを提供するといったことなどの新たな収益の基盤を生みだすことでしょう。
もうひとつ覚悟しておくべきは、「時間をかけて積み上げた経験値」つまり「ベテランならではのスキル」の不良資産化が加速することです。
これまでであれば、ある程度の経験を積み上げなければ、最低限の合格ライン/80点に到達することができませんでした。もはやそんな時代ではありません。AIがとりあえずの80点までは、引き上げてくれます。特に、報告書や稟議書、市場分析レポートや事業施策のアイデア出しなどといった知的力仕事は、「何を知りたいのか、何を解決したいのか」の問いを適切に発することができれば、あっという間にこなしてくれます。生成AIを組み込んだ検索エンジン(”検索エンジン”というより”検索のためのAIエージェント”と呼ぶべきかも知れません)であるPerplexityやGensparkなどを使えば、その問いさえも自分がインプットした言葉から想像し、サジェストしてくれます。
もはや80点のための「知的力仕事」のスキルを身につける必要はありません。80点をスタートラインに、そこから修正して、完成度を高めることです。
そのためには、「問いを立てる」能力、つまり「解決すべき課題を設定する」能力を磨くことがこれまでにも増して重要になります。後は、AIと対話することで、その背後にある膨大な知識から学びや気付きを得て、自らの課題設定の希少性や独自性を追求し、100点を越える成果を生みだすことに、人間の役割をシフトさせなくてはなりません。
80点に留まっている人は、コスパが圧倒的なAIに仕事を奪われます。100点に満足している人は、誰にでもできる仕事ですから、安い仕事に甘んじなくてはならず、人生の選択肢を狭めてしまいます。
100点を超えようとすることにこそ、AIを使いこなすことであり、人間の役割を、こちらにシフトさせることで、さらなる社会の発展がもたらされるのだと思います。
「時間をかけて積み上げた経験値」があるという事実は、80点ができることです。AIが当たり前になった時代には、そのことに価値はありません。面倒な人間、つまり、経験に依存したバイアス、根拠のないプライド、精神状態や肉体的な不安定などへの気遣いが必要な人間よりも、こちらが頼んだ仕事を文句1つ言わず、さっさと(驚異的な速さ)仕上げ、こうしてくれ、ああしてくれに不満の顔など見せずに(そもそも顔はないが)、何度でもやってくれるわけですから、「ベテランだから」の価値は、なくなってしまいます。
「ベテラン」であるのなら、その経験値を活かして、もっとお客様や自分たちの価値を高めるためには、何をすればいいのかを考え、AIの力を使いながら、これまで以上の完成度で100点を目指せるかどうかが、最低限でしょう。これを踏まえて、独自性と希少性を求めて新たな問いを創り出すこと、すなわち100点を超えることが、私たち人間の役割となるのです。
テクノロジーの発展が既存の人間の仕事を奪うのは、いつの時代も同じです。だからこそ、テクノロジーを使うことを通じて新た問いを見つけ、次のテーマを創ることで、私たち人間は、自分達の役割を維持し、社会を進歩させてきました。
これをビジネスに当てはめて考えるなら、テクノロジーを駆使していち早く最適解を求め、次のテーマを生みだし、その答えを導くことで、新しいビジネスが生まれ、新しい役割や仕事が生まれます。私たちは、そうやってテクノロジーを味方に付けて、社会や顧客の「新たな必要」を生みだすことで、ビジネスのチャンスを引き寄せることができるのです。
- あなたは、時代の趨勢を見極めようとしていますか?
- あなたは、自分たちの土台が、これまでと変わってしまったことに目をつむっていませんか?
- あなたは、問いを発し続けていますか?
変化のスピードが加速度を増すなか、わずかな躊躇が圧倒的な社会的価値の格差となってしまいます。私たちは皆、この3つを問い続けなければならない時代に生きているのです。
時代の趨勢を見極めるために!
次期・ITソリューション塾・第47期(2024年10月9日 開講)
次期・ITソリューション塾・第47期(2024年10月9日[水]開講)の募集を始めました。
特別補講の講師が決まりました。
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企業文化の変革に挑む富士通の取り組み
〜フジトラの実践を通じて見えてきたITビジネスのあるべき姿と課題〜
特別講師:富士通株式会社 執行役員常務 CIO(兼)CDXO補佐 福田 譲 氏
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富士通は、いま「フジトラ(富士通トランスフォーメーション)」に取り組んでいます。フジトラは、ビジネス・モデルや業務プロセスの変革に留まらず、企業文化の変革にも踏み込んだ、会社を作り変えようという取り組みです。道半ばとはいえ、確実に成果が現れつつある一方で、様々な課題にも直面しています。そんなフジトラの実践をリードする福田譲氏に、フジトラの”いま”を”正直に”ご紹介頂きます。
DXの実践に取り組む多くの企業にとって、大変参考になると思います。
次のような皆さんには、きっとお役に立つはずです。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
- IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
- デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
ITに関わる仕事をしている人たちは、いま起こりつつある変化の背景にあるテクノロジーを正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様への提案に、活かす方法を見つけなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えするとともに、ビジネスとの関係やこれからの戦略を解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
詳しくはこちらをご覧下さい。
※神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO(やまと)会員の皆さんは、参加費が無料となります。申し込みに際しましては、その旨、通信欄にご記入ください。
- 期間:2024年10月9日(水)〜最終回12月18日(水) 全10回+特別補講
- 時間:毎週(水曜日*原則*) 18:30〜20:30 の2時間
- 方法:オンライン(Zoom)
- 費用:90,000円(税込み 99,000円)
- 内容:
- デジタルがもたらす社会の変化とDXの本質
- IT利用のあり方を変えるクラウド・コンピューティング
- これからのビジネス基盤となるIoTと5G
- 人間との新たな役割分担を模索するAI
- おさえておきたい注目のテクノロジー
- 変化に俊敏に対処するための開発と運用
- アジャイルの実践とアジャイルワーク
- クラウド/DevOps戦略の実践
- 経営のためのセキュリティの基礎と本質
- 総括・これからのITビジネス戦略
- 特別補講 :富士通・常務取締役 福田譲 氏
- 企業文化の変革に挑む富士通の取り組み〜フジトラの実践を通じて見えてきたITビジネスのあるべき姿と課題〜
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。
6月22日・販売開始!【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版
生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。
これからは、「ITリテラシーが必要だ!」と言われても、どうやって身につければいいのでしょうか。
「DXに取り組め!」と言われても、これまでだってデジタル化やIT化に取り組んできたのに、何が違うのかわからなければ、取り組みようがありません。
「生成AIで業務の効率化を進めよう!」と言われても、”生成AI”で何ですか、なにができるのかもよく分かりません。
こんな自分の憂いを何とかしなければと、焦っている方も多いはずです。