米ギャラップ社の調査によれば、日本の「熱意あふれる社員」の割合はわずか数パーセント。この世界最低水準のエンゲージメント危機は、多くの従業員が自社に貢献意欲を持てていないという厳しい現実を突きつけています。この深刻な問題の根源は、どこにあるのでしょうか。
その大きな一因が、多くの企業でいまだに行われている「新入社員研修」にある、と私は考えています。特に、顧客のDXを主導すべきIT企業において、次代のビジネスの核となる「AI」やアジャイル開発、DevOps、クラウドネイティブなどの「モダンIT」についてほとんど何も教えず、時代遅れのカリキュラムを続けているケースが後を絶ちません。
AIやモダンITが事業環境を根底から覆す今、この問題はもはや『人事課題』ではなく、競合に後れを取り、企業の存続を左右する『経営課題』そのものです。
なぜ、あなたの会社の研修は「若者の心」と「会社の未来」を蝕むのか
希望を胸に入社した新入社員が、時代遅れの研修アジェンダを渡されたとき、彼らは何を思うでしょうか。それは単なる研修プログラムの不備ではありません。社員に対して「君たちの未来、そして会社の未来に、本気で投資する気はない」という、経営からの強烈なメッセージです。
システム開発の現場では、AI駆動開発、アジャイル、DevOps、クラウドネイティブといったモダンITが必須の教養となりつつあるにもかかわらず、研修で教えるのは、ウォーターフォール開発の手順やオンプレミスシステムの運用管理といったレガシーITの知識ばかり。これでは、未来志向の若者たちが会社の将来性に見切りをつけ、エンゲージメントを失うのは当然です。彼らは、自分の成長が会社の成長に繋がる実感を得られず、ただ時代遅れの「歯車」として扱われていると感じるでしょう。
このエンゲージメントの欠如がもたらす結末は、「静かな退職(Quiet Quitting)」、つまり最低限の仕事しかしない状態に陥るか、より未来志向の企業へ早々に見切りをつけて転職していくかの二択です。コストをかけて採用した優秀な人材が、次々と去っていくのです。
一方で社内には、人月ビジネスの縮小と単価の下げ圧力の中で、高コスト化したベテラン社員が残るという「高齢者問題」も深刻化します。未来なき研修は、こうして静かに、しかし確実に会社の未来を蝕んでいきます。
AI時代に本当に教えるべきこと:「呪文」ではなく「揺るぎない土台」を
では、これからのエンジニアは、ただAIを使いこなすための「呪文(プロンプト)」を覚えればいいのでしょうか? 答えは断じて「ノー」です。
なぜなら、AI駆動開発やアジャイル、クラウドネイティブといったモダンITは、普遍的な学問である「コンピューターサイエンス」と「ソフトウェアエンジニアリング」を、現代のビジネス環境でより効果的・効率的に実現するための技術であり、方法論に過ぎないからです。
テクノロジーは日進月歩で進化し、将来は想像もつかないような新しい技術や方法論が登場するでしょう。しかし、その根底にある原理原則は決して変わりません。この揺るぎない土台を深く理解している人材こそが、未来の変化に対応し、新たな価値を創造し続けることができるのです。
だからこそ、新入社員研修のカリキュラムは抜本的に見直し、これらの基礎科学の講義を中心に据えるべきです。そして、その土台の上でモダンITの実践を徹底的に学ばせる。これこそが、「工数提供型ビジネス」から脱却し、「技術力提供型ビジネス」へと転換を果たすための、唯一の道と言えるでしょう。
未来を担う人材には、未来を創るための知識とスキルを集中して身につけてもらう。そのための「選択と集中」が、今まさに経営者に求められています。
変われない経営者たち:過去の成功体験という名の「病」
これまでのSIビジネスの多くは、経験と知識を集約した「工数」を提供価値の中心としてきました。しかし、その領域の多くがAIに代替される未来は、もうすぐそこです。
なぜ、経営者は未来への舵を切れないのでしょうか。
- ITトレンドを見通す目の欠如: 経営者が技術の進化とそのインパクトを正しく理解できていない。
- 過去の成功体験というバイアス: これまでのやり方で成功してきた経験が、「まだ大丈夫だろう」という根拠のない楽観論を生んでいる。
しかし、顧客がIT企業に抱く期待は、もはや「言われたものを納品する単なる『ベンダー』」ではありません。「ITを前提としたビジネス変革を、圧倒的な技術力で共に実現してくれるパートナー」へと、すでに変わりつつあるのです。
この本質から目をそらし、「工数を稼ぐための労働力」を育てる研修を続けることは、会社の未来を託す覚悟ができていないことの表れに他なりません。
未来への処方箋:「二正面作戦」による事業と人材育成の再定義
この負のスパイラルを断ち切るには、小手先の改善では不可能です。AI時代における自社の存在価値を根本から見つめ直し、事業と人材育成のあり方を大胆に再定義しなくてはなりません。
私からの提案は、「二正面作戦」です。
- ベテラン層は「レガシーIT介護事業」の担い手へ 既存システムの維持・運用という需要はすぐにはなくなりません。レガシーITに精通したベテラン社員には、その専門領域で引き続き活躍してもらいます。彼らの経験が最も活きる場所であり、無理のない選択肢のはずです。
- 新入社員・若手層は「モダンIT」で次代の担い手へ 一方、新人には徹底してモダンITと、その土台となるコンピューターサイエンスを学ばせます。AI、クラウド、アジャイルに習熟させ、未来の事業を創り出す存在として育成するのです。この未来への明確な投資こそが、エンゲージメントを回復させる唯一の道です。
問われるのは経営者の「覚悟」
社会が急速にAI前提へと切り替わる今、この変革を実行できるか否かは、ひとえに経営者の「覚悟」にかかっています。
研修の変革は、単なる教育プログラムの見直しではありません。それは、自社の未来像を明確に描き、その未来を安心して託せる人材を育てるという、経営の最重要課題です。
社員のエンゲージメント危機という警鐘に耳を傾け、未来への投資を断行するのか。それとも、過去の栄光にすがりつき、社員の心が離れていくのをただ眺めているのか。
その決断と実践が、今まさに問われています。
今年も開催!新入社員のための1日研修・1万円
AI前提の社会となり、DXは再定義を余儀なくされています。アジャイル開発やクラウドネイティブなどのモダンITはもはや前提です。しかし、AIが何かも知らず、DXとデジタル化を区別できず、なぜモダンITなのかがわからないままに、現場に放り出されてしまえば、お客様からの信頼は得られず、自信を無くしてしまいます。
営業のスタイルも、求められるスキルも変わります。AIを武器にできれば、経験が浅くてもお客様に刺さる提案もできるようになります。
本研修では、そんないまのITの常識を踏まえつつ、これからのITプロフェッショナルとしての働き方を学び、これから関わる自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうことを目的としています。
参加費:
- 1万円(税込)/今年社会人となった新入社員と社会人2年目
- 2万円(税込)/上記以外
お客様の話していることが分かる、社内の議論についてゆける、仕事が楽しくなる。そんな自信を手にして下さい。
営業とは何か、ソリューション営業とは何か、どのように実践すればいいのか。そんな、ソリューション営業活動の基本と実践のプロセスをわかりやすく解説。また、現場で困難にぶつかったり、迷ったりしたら立ち返ることができるポイントを、チェック・シートで確認しながら、学びます。詳しくはこちらをご覧下さい。
100名/回(オンライン/Zoom)
2025年8月27日(水) ※1回のみ
現場に出て困らないための最新トレンドをわかりやすく解説。 ITに関わる仕事の意義や楽しさ、自分のスキルを磨くためにはどうすればいいのかも考えます。詳しくはこちらをご覧下さい。
100名/回(オンライン/Zoom)
いずれも同じ内容です。
【第1回】 2025年6月10日(火)
【第2回】 2025年7月10日(木)
【第3回】 2025年8月20日(水)
【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版
生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
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