もし、あなたがまだ「AIをどう使えば、仕事が効率化できるだろうか」「どの業務に導入すれば、コストを削減できるだろうか」と考えているとしたら、この記事を読んでいる今この瞬間が、未来を分ける最後のチャンスかもしれません。
なぜなら、その問いの立て方そのものが、あなたの会社を衰退へと導くだけでなく、AIに『使われる』側へと追いやられ、価値を失っていくあなた自身のキャリアをも危うくする罠だからです。
それは、かつて私たちが犯した、大きな過ちの繰り返しに他なりません。
インターネット黎明期、日本企業が犯した「同じ過ち」
1990年代、インターネットの黎明期。多くの日本企業は、この新しいテクノロジーを前に「どう使えばいいのか」と考えました。そして導き出した答えの多くは、「安価な通信手段」というものでした。既存のビジネスを変えることなく、それを少しだけ改善するための「道具」として利用することに終始したのです。
一方、一部の先駆者たちは、全く異なる未来を見ていました。彼らはインターネットを、単なる道具ではなく、時間的、地理的な制約を超えた「新しい社会や経済の基盤」そのものだと捉えました。そして「この新しい世界で、自分たちはどう変わるべきか」との思いを巡らせたのです。
なぜ、この分岐が生まれたのでしょうか。
当時の日本では、バブル崩壊後の惰性や、新しい挑戦を「非常識」と見なす風潮、失敗を許さない文化が根強くありました。
世界に先駆けていたiモードは、既存の通信体験を飛躍的に向上させた、まさに「改善」の最高傑作でした。しかし、自らを破壊してオープンなプラットフォームへと「変革」する道を選べなかったために、iPhoneという新しいOS(土台)の上で生まれた生態系にその座を明け渡しました。
既存の産業構造に挑んだ起業家たちは異端児と見なされ、その多くが大きな抵抗に遭い、志半ばでその芽を摘まれていきました。
対照的に米国、特にシリコンバレーでは、挑戦者にこそチャンスが与えられました。一度アップルを追われたスティーブ・ジョブズがその後の失敗経験を糧に復活を遂げたように、チャレンジと失敗の経験そのものが価値を持つと見なされたのです。その土壌があったからこそ、AmazonやGoogleといった、当初は「非常識」とさえ思われたビジネスモデルを持つ「変革者」が生まれ、今日の決定的な違いとなって現れています。
AIは「道具」ではない。「社会の前提」になる汎用目的技術(GPT)だ
このインターネットは、経済学の世界で汎用目的技術(GPT:General Purpose Technology)と呼ばれるものの一つです。汎用目的技術とは、蒸気機関や電力がそうであったように、社会や経済のあらゆる領域に浸透し、無数の新しい技術やビジネスモデルを生み出す基盤となる、根源的なテクノロジーを指します。
AIもまた、このGPTの一つであることは間違いありません。
なぜならAIは、特定の産業の効率化に留まらず、私たちの働き方、学び方、意思決定の方法まで、生活と社会の隅々に広く、そして深く影響を与え、これまでの常識を根本から変える力を持っているからです。
それは、同じくGPTである「電気」が社会の「前提」になったことに等しい変化です。私たちは今、暗いからと当たり前に照明のスイッチを入れ、暑いからとエアコンを使います。その背景にある電気の存在をいちいち意識することはありません。
まさに今、AIを新たな前提とする、同様の地殻変動が起きようとしているのです。
しかも、その進化の速度は過去のGPTとは比較になりません。AIはディープラーニングを経て、今や生成AIとして論理的な思考の能力さえ持ち始めています。そして、人間のようにあらゆる知的作業を自律的に実行できる汎用AI(AGI)の登場がすぐそこに迫っています。
私たちは、そんなAIの発展の奔流の中に立っています。ただ立ちすくんでいるだけでは押し流される。だからこそ、歴史から学び、問いの立て方を変えなければならないのです。
「どう使うか(改善)」ではなく「どう変わるか(変革)」。未来を分ける唯一の問い
ここで、2つの問いの違いを明確にしておきましょう。
「どう使うか」 は、現状維持を前提とした「改善」の発想です。
「どう変わるか」 は、未来のあるべき姿を起点とした「変革」の発想です。
「改善」は、現状の問題を解決し、既存のビジネスをより良い状態にすること。短期的な視点です。一方、「変革」は、5年後、10年後の「あるべき姿」と現状とのギャップを課題と捉え、未来で生き残るために自らを新しく作り変えること。長期的な視点です。
この違いの認識こそが、未来を分けます。
なぜなら、目先の『改善』という心地よい麻薬に浸っているうちに、AIは市場のルールそのものを根底から破壊し、気づいたときには、あなたのビジネスもキャリアも『過去の遺物』になっているからです。AIの時代に求められているのは、既存のレースで少しだけ速く走ることではなく、全く新しいルールの、全く異なるレースで勝つための準備なのです。
DXの次へ。私たちが立つべき「After DX」という荒野
歴史は繰り返されます。今、多くの企業が再び「どう使うか」という「改善」の罠にはまっています。このままでは、インターネットの時代に起きたことと同じ、いや、それ以上に厳しい未来が待っているかもしれません。
もはや、旧来のDXの議論に留まっている時間はありません。そもそもDXとは、デジタルが前提の社会に適応するための「変革」のことでした。しかし、AIの急激な発展は、もはや単なるデジタル化の範疇を遥かに超える変化を私たちに求めているのです。
今、私たちが立つべき場所は、DXの達成後、つまり『After DX』の荒野なのです。
この記事であなたに伝えたいことは、この『問いの立て方』そのものを変えるべきだというシンプルな提言です。AIの本質とは、既存業務の効率化などではなく、DXが目指した『変革』の、さらにその先にある未来を創造することなのです。
未来は、予測するものではなく、創造するものです。
この記事が、あなたがAIに『使われる』未来を拒み、AIを『前提』として自らの未来を創造していくための羅針盤となり、『変革』という名の冒険へ踏み出す、力強い第一歩となることを心から願っています。
【募集開始】次期・ITソリューション塾・第50期
次期・ITソリューション塾・第50期(2025年10月8日[水]開講)の募集を始めました。
2008年に開講したITソリューション塾は、18年目を迎えました。その間、4000名を超える皆さんがこの塾で学び、学んだことを活かして、いまや第一線で活躍されています。
次期は、50期の節目でもあり、内容を大幅に見直し、皆さんのビジネスやキャリアを見通すための確かな材料を提供したいと思っています。
次のような皆さんには、お役に立つはずです。
・SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
・ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
・デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
・IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
・デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
詳しくはこちらをご覧下さい。
※神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO(やまと)会員の皆さんは、参加費が無料となります。申し込みに際しましては、その旨、通信欄にご記入ください。
期間:2025年10月8日(水)~最終回12月17日(水) 全10回+特別補講
時間:毎週 水曜日18:30~20:30の2時間
方法:オンライン(Zoom)
費用:90,000円(税込み 99,000円)
内容:
- デジタルがもたらす社会の変化とDXの本質
- ITの前提となるクラウド・ネイティブ
- ビジネス基盤となったIoT
- 既存の常識の書き換え前提を再定義するAI
- コンピューティングの常識を転換する量子コンピュータ
- 変化に俊敏に対処するための開発と運用
- 【特別講師】クラウド/DevOpsの実践
- 【特別講師】アジャイルの実践とアジャイルワーク
- 【特別講師】経営のためのセキュリティの基礎と本質
- 総括・これからのITビジネス戦略
- 【特別講師】特別補講 (選人中)
*「すぐに参加を確定できないが、参加の意向はある」という方は、まずはメールでご一報ください。事前に参加枠を確保します。決定致しましたらお知らせください。
8月8日!新著・「システムインテグレーション革命」出版!
AI前提の世の中になろうとしている今、SIビジネスもまたAI前提に舵を切らなくてはなりません。しかし、どこに向かって、どのように舵を切ればいいのでしょうか。
本書は、「システムインテグレーション崩壊」、「システムインテグレーション再生の戦略」に続く第三弾としてとして。AIの大波を乗り越えるシナリオを描いています。是非、手に取ってご覧下さい。
【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版
生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。