AI駆動開発やAIOpsといった技術は、もはや未来の夢物語ではありません。日々進化を続け、その機能は目覚ましい向上を遂げています。この急速な変化は、ITプロフェッショナルがこれまで培ってきた技術やスキルの「前提」そのものを、根本から揺るがし始めています。システム開発・運用の常識が、今まさに書き換えられようとしているのです。
開発や運用において人間が担うべき3つの役割
AIが進化する中で、システム開発や運用において人間が主体的に担うべきは、以下の3点に集約されると考えられます。
- 「あるべき姿」を描くこと: 私たちはITを使って何を成し遂げたいのか、どのような変革や改善を実現したいのか。そのビジョンや目的を明確に定義すること。
- AIと対話すること: 定義した「あるべき姿」を達成するために、AIに対して何をすべきかを具体的に指示すること。その際、一発勝負のプロンプトではなく、人間が問いを発しAIがそれに答え、再びこれに対する問いを与えることを繰り返しながら、やって欲しいことを具体化すれば、その能力を最大限に引き出すことができる。
- AIが活躍できる環境を整備すること: AIが効率よく、かつ安全にタスクを実行できるよう、必要なデータ、インフラ、プロセスを整えること。
言い換えれば、人間は「手を動かす」作業、すなわち「知的力仕事」から解放されます。これにより、より創造的で戦略的な役割へとシフトしていくことができます。つまり、システムの開発や運用といった、これまで多大な労力を要した仕事の負荷をAIに任せ、私たちはITを駆使して業務プロセスを変革し、新たなビジネスモデルを創出することに知恵を働かせ、意識や時間を傾けることができるようになるのです。
AIは万能ではない:人間ならではの価値
しかし、AIが決して万能ではないという事実も理解しておくべきです。AIの限界を正しく理解し、人間ならではの価値を認識することが、これからの時代を生き抜く鍵となります。
- 説明責任の壁: AIは驚くほど的確な答えを導き出すことがあります。しかし、多くの場合、「なぜその結論に至ったのか」というプロセスや論理的根拠を明確に説明することは苦手です。特に、医療、創薬、行政、司法など、判断の根拠が極めて重要視される領域では、AIの答えを鵜呑みにすることはできません。XAI(説明可能なAI)技術の発展がこの課題解決の一助となる可能性はありますが、最終的な論理的根拠を示し、その結果に対する責任を負うのは、依然として人間の重要な役割です。
- 内発的動機の欠如: 「何をしたいか」「何を解決したいか」「どうなりたいか」といった、目標設定の根源となる好奇心、探求心、夢、理想といった内発的な動機付けは、AIにはありません。人間が目的を示さなければ、どれほど優秀なAIもその真価を発揮することはできません。問いを立てる力こそが、人間の重要な価値となります。
- 暗黙知の壁: AIは、言語や画像として表現された「形式知」を学習し、それに基づいた答えを出してくれます。しかし、経験や勘、共感、身体感覚といった、言葉にしにくい「暗黙知」を学習することはできません。熟練者の持つノウハウや、チーム内での阿吽の呼吸といったものは、依然として人間の領域です。この暗黙知を形式知へと変換し、AIに学習させる、あるいはAIの形式知と人間の暗黙知を融合させること、ここに人間とAIの効果的な協働のポイントがあります。
将来的に、自律的にタスクを実行するAIエージェントや、人間のような汎用性を持つAGI(汎用人工知能)が登場したとしても、上記のような人間の本質的な役割がなくなることはありません。むしろ、AIの能力を最大限に引き出すためには、人間はより一層、人間にしかできない領域へと積極的に役割をシフトしていく必要があります。
変化に対応するために何をすべきか
この大きな変化の波に対応するために、ITプロフェッショナルには何が求められるのでしょうか? それは、学び続ける姿勢です。特に、「コンピューター科学やソフトウェア工学といった基礎・基本」がこれまでにも増して重要になります。アジャイル開発、DevOps、クラウドコンピューティングといった、いわゆる「モダンIT」と呼ばれるプラクティスや技術は、これら基礎・基本を効率的かつ確実に実践するための具体的な方法論やサービスに他なりません。AI駆動開発もまた、ソフトウェア開発の原理原則をより効率的に実現するための手段の一つです。
これらモダンな技術や方法は、すべて基礎・基本の上に成り立っています。今後、テクノロジーがどれほど進化し、新しいツールや方法論が登場したとしても、この構造が変わることは考えにくいでしょう。
「工数」から「技術力」へ:ビジネスモデルの転換
これまでのIT業界、特にSIビジネスにおいては、経験の蓄積によって培われた知識やスキル、いわば現場の勘に支えられた「知的力仕事」をベースとした「工数」を提供価値の中心に据えてきました。しかし、この「知的力仕事」の多くは、近い将来AIによって代替される可能性が高いと言わざるを得ません。それに伴い、「工数ビジネス」もまた、その需要を急速に失っていくでしょう。
生き残るためには、売るものを「工数」から「技術力」へと転換しなければなりません。ここで言う「技術力」とは、単に新しいツールを使えることではありません。次々と現れる新しい技術の本質的な価値を正しく見抜き、それを使いこなし、顧客の課題解決やビジネス変革に繋げる能力のことです。そして、この「技術力」の根幹をなすのが、先ほど述べたコンピューター科学やソフトウェア工学の基礎・基本です。
ITプロフェッショナルへの提言
AIが前提となる時代において、ITプロフェッショナルは以下の点を意識し、行動すべきです。
- 変化を恐れず、受け入れる: AIによる変化は不可避です。現状維持に固執せず、変化を前向きに捉え、新しいスキルや働き方を積極的に学ぶ。
- 基礎・基本に立ち返る: コンピューター科学、ソフトウェア工学の原理原則を深く理解し、再学習する。これが変化に動じない土台となる。
- 「問いを立てる力」を磨く: AIに「何をさせるか」を定義する能力、すなわち、ビジネス課題やあるべき姿から、具体的な問いを立てる能力が重要となる。
- AIとの協働スキルを習得する: AIを使いこなし、その限界を理解した上で、人間ならではの価値(説明責任、動機付け、暗黙知の活用)を発揮するスキルを身につける。
- 「技術力」で価値を提供する意識を持つ: 単なる作業の提供ではなく、技術の本質を理解し、それを応用して顧客の課題解決やビジネス創造に貢献することを目指す。
- 学び続ける習慣を持つ: テクノロジーの進化は止まりません。常に最新動向を把握し、自らの知識とスキルをアップデートし続けることが不可欠。
いずれも大切ですが、「問いを立てる力」はAI時代には特に大切です。何を知りたいのか、何を実現したいのか、何を解決したいのかを具体的にイメージでき、言葉にできる能力のことです。先に紹介した「内発的動機」なくして、この能力は磨かれません。結局のところ、沢山の本を読み、多くの人たちと話し、そこから気付いたことを実践して「感じる体験」をどれだけ積み上げるかによってこの能力は磨かれます。つまり、「実践知」によってこの能力は磨かれるのです。「実践知」とは、実践の場における経験から得られる、状況を的確に判断し、適切な行動を導く知識のことです。本や理論も大切ですが、それだけでは得られない、現場での経験によって培われる知識です。
AIがどれほど性能を高めても、その能力を十分に引き出せるかどうかは、人間が与える「問い」次第です。その問いは「実践知」によって磨かれます。言葉を変えれば、AIは、私たち人間の能力を増幅、拡張してくれる道具だと言うことです。増幅、拡張すべき対象となる人間の「実践知」なくして、AIは役にも立ちません。
「問いを立てる力」を駆使できれば、人間は、創造的な仕事へとこれまで以上に意識や時間を傾けることができます。そういう時間を生みだすための相棒として、AIはとても頼りになります。
AI時代に突入し、ITプロフェッショナルは、この現実に真摯に向き合い、自らの役割を再定義して変革を進めなくてはなりません。
変化の加速度は増すばかりです。わずかな遅れは、致命的な格差となって現れてくるでしょう。一方、一歩前に立つことができれば、それは圧倒的な優位となり、ビジネスに於いても、キャリアに於いても、成長の機会を引き寄せてくれることは、間違えはありません。
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【第1回】 2025年6月10日(火)
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