先日、OpenAIが「ChatGPT agent」を発表しました。このAIエージェントの登場は、私たちの働き方や生活を大きく変える可能性を秘めており、さらにその先にあるAGI(汎用人工知能)時代の到来を予感させます。
今回は、目前に迫るAGI新時代に、私たちはどのように備え、どのような役割を担っていくべきかを探ります。
自分専属の秘書「AIエージェント」の登場
OpenAIが発表した「ChatGPT agent」とは、ユーザーに代わって、調査や計画、ツールの実行といった複雑なタスクを自律的にこなすAIのことです(OpenAI “Introducing ChatGPT agent”より)。
私も早速「今週末の出張で泊まるホテルの空き状況と料金の一覧」を調べさせてみましたが、これまでWebサイトを一つひとつ開いて確認していた手間が嘘のように、瞬時にリストアップしてくれました。これはまさに、自分専属の優秀な秘書であり、頼りがいのある部下のような存在です。近い将来、ホテルや交通機関の予約まで完全に任せられるようになるでしょう。
AGIは10年以内に登場する?
AIエージェントの登場だけではありませんが、これまで人間にしかできなかったことをAIができるようになり、その範囲の拡大スピードが驚異的に加速しているという事実は、自覚しておくべきかも知れません。
そして、このような進化の先にあるのが、AGI(汎用人工知知能)です。AGIとは、特定のタスクに特化するのではなく、人間と同等かそれ以上に、あらゆる知的作業を理解し、自律的に学び、実行できるAIを指します。AGIが実現すれば、私たちの日常やビジネスの前提は根底から覆されることになります。
その登場はもはや遠い未来の話ではありません。専門家たちの間では、その登場時期について、楽観的な見方では今年中、悲観的な見方でも10年以内には実現するという見方が示されています(日本経済新聞 “AGI開発競争”より)。
AGIの定義が専門家の間でも完全には統一されていないため、予測に幅が出るのは仕方のないことですが、それでも「10年以内」という期間は、私たちが備えるべき現実的なタイムラインと言えるでしょう。
AGI時代に求められる3つの人材像
では、来るべきAGI時代に、私たち人間はどのような価値を発揮すればよいのでしょうか。求められる人材像は、大きく以下の3つに分類できると考えられます。
- AIを駆使して⾃⾝のパフォーマンスを⾼められる⼈材
- AIにはない⼈間的な魅⼒や独創性を発揮できる人材
- AIを作り、機能や性能の改善や向上ができる⼈材
一般的なビジネスパーソンであれば、1と2の人材像を目指すことになるでしょう。そのためには、単に新しいツールを待つのではなく、自らの業務にどうAIを組み込めるかを主体的に考え、試行錯誤する姿勢が不可欠です。同時に、AIには真似できない深い共感に基づいた対話や、分野を横断するような独創的なアイデアで、新たな価値を創造し続けることが求められます。
一方、エンジニアであれば3の人材像が求められます。単にコードが書ける、システムが設計できるだけでなく、AIという強力なツールを使いこなし、圧倒的な生産性と品質でシステムを実現し、AIそのものを進化させていく能力が必要となるでしょう。
AI時代に人間が担うべき3つの役割
AIが前提となる社会において、人間が担うべき本質的な役割とは何でしょうか。それは、以下の3つに集約されます。
- 責任の担保とリスクテイク
- データやAIの背後にある本質や課題を⾒抜く
- AIと⼈間の最適配置を設計
1. 責任の担保とリスクテイク
AIは膨大なデータから「究極の一般解」を導き出します。しかし、それがその瞬間の最適解であるとは限りません。ここで重要になるのが、人間による「特別解」の選択です。
例えば、あるレストランで常連のお客様の料理に問題があったとします。AIに解決策を求めれば、過去の膨大なクレーム対応データから「料理の無償交換と10%割引」といった、損失を最小限に抑えつつ顧客満足度を保つための最も合理的な「一般解」を提示するでしょう。
しかし、対応する店長(人間)は、データには現れない状況を考慮します。お客様が大切な接待で利用していること、いつもお世話になっていること、その表情から読み取れる失望感などです。そして、短期的な損失というリスクを取ってでも、お客様との長期的な信頼関係を優先し、「お代は結構です」という「特別解」を決断するかもしれません。
この決断には「お客様との関係を絶対に維持する」という責任が伴います。「AIが答えたとおりにやったので私には責任はない」という言い訳は、いまの社会では通用しません。このように、データ化できない状況を読み取り、最終的な責任を負ってリスクを取る覚悟こそが、人間にしか果たせない価値となるのです。(参考:以前の ブログ)
2. データやAIの背後にある本質や課題を⾒抜く
この役割が必要なのは、AIが提示する答えの妥当性を、人間が批判的思考を持って判断する必要があるからです。AIの答えは学習データに依存するため、そこに偏り(バイアス)が含まれる可能性は常にあります。倫理観や社会常識に照らして、「正しい解釈」を自らの意志で行う必要があります。
しかし、見抜くべきはバイアスだけではありません。AIの結論を鵜呑みにするのではなく、一度立ち止まり、物事の原理や原則、基礎や基本に立ち返って考えることで、その答えが本当に道理にかなっているのかという「本質」を深く洞察する力が求められます。「なぜこの結論に至ったのか」「どのようなデータに基づいているのか」「他に考慮すべき点はないか」といった問いは、そのための重要な出発点となるでしょう。
3. AIと⼈間の最適配置を設計
「AIと人間の最適配置の設計」も、人間にしかできない重要な役割です。ここで言う人間の知性を「OI(Organic Intelligence)」と呼ぶならば、AIの知性とOIの知性は、それぞれ得意な領域が異なります。
AIがデータ処理や論理的な推論に長けているのに対し、OIは共感や倫理観、そして複雑な組織文化の理解といった、数値化できない定性的な要素を捉えることに優れています。
もはやAIかOIかの二者択一ではありません。両者の得意不得意を見極め、最適に組み合わせることで、AIだけでもOIだけでも到達できない、新たな知性、すなわち「拡張知性(Augmented Intelligence)」へと進化させることです。
誰が、あるいはどのAIがどの仕事を担当すればチーム全体のパフォーマンスが最大化されるのか。効率や生産性だけでなく、メンバーの感情やモチベーションまでを考慮したこの采配は、まさに拡張知性を設計する行為そのものです。この設計者としての役割こそ、人間が価値を発揮すべき最後の砦と言えるでしょう。
AGIの登場に備えよ
AGIの足音は、もうすぐそこまで聞こえています。専門家が予測する「10年」という時間は、長いようでいて、実は驚くほど短い時間です。少し想像してみてください。今からわずか10年前、私たちの手の中にあったスマートフォンで、今のようにAIが日常のツールとして使われる未来を、どれだけの人が具体的に描けていたでしょうか。
そして重要なのは、世界が10年後に突然AGIの時代に切り替わるわけではない、ということです。変化はすでに始まっており、この10年という期間は、社会全体が徐々に、しかし確実にAGIへと移行していくプロセスなのです。私たちが今目にしているAIエージェントの登場は、その序章に過ぎません。
「10年後までに備えればいい」という考えは、残念ながら通用しないでしょう。それは、42.195kmのマラソンで最後の1kmから走り始めるようなものです。変化の波はすでに足元にまで押し寄せています。あなたは、この大きな変化の波に対応する準備ができているでしょうか。
今一度、ご自身のスキルや日々の業務を振り返り、AI時代にどのような価値を発揮していきたいのかを考えてみるべきです。10年は「長く見積もっても」の時間です。「まだ大丈夫だろう」という期待はAIに関してはことごとく裏切られています。この事実もまた、私たちは知っておくべきでしょう。
8MATO祭り・8月9日(土)・出展者が決まりました!
今年も開催!新入社員のための1日研修・1万円
AI前提の社会となり、DXは再定義を余儀なくされています。アジャイル開発やクラウドネイティブなどのモダンITはもはや前提です。しかし、AIが何かも知らず、DXとデジタル化を区別できず、なぜモダンITなのかがわからないままに、現場に放り出されてしまえば、お客様からの信頼は得られず、自信を無くしてしまいます。営業のスタイルも、求められるスキルも変わります。AIを武器にできれば、経験が浅くてもお客様に刺さる提案もできるようになります。
本研修では、そんないまのITの常識を踏まえつつ、これからのITプロフェッショナルとしての働き方を学び、これから関わる自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうことを目的としています。
参加費:
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お客様の話していることが分かる、社内の議論についてゆける、仕事が楽しくなる。そんな自信を手にして下さい。
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100名/回(オンライン/Zoom)
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【第1回】 2025年6月10日(火) ※受付を終了しました
【第2回】 2025年7月10日(木) ※受付を終了しました
【第3回】 2025年8月20日(水)
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